韓国にも、遺言や生前贈与で財産の大半が特定の人に渡ってしまったとき、近い遺族が法律上保障された最低限の取り分を取り戻す「遺留分(韓国語:유류분)」という制度があります。日本の遺留分とよく似ていますが、2024年の憲法裁判所の決定と2026年施行の改正民法によって、韓国の遺留分は今、大きく姿を変えました。特に在日韓国人や、韓国に住む親族から相続する日本在住の相続人にとって、古い情報のままでは判断を誤りかねない領域です。
本記事では、誰がどれだけ取り戻せるのか、最近の改正で何が変わったのか、そして日本の遺留分とどこが違うのかを、韓国弁護士の視点で整理します。
この記事のポイント
- 兄弟姉妹の遺留分は廃止された(韓国憲法裁判所 2024年4月25日 2020헌가4等 決定、改正民法 2026年3月17日施行)
- 現在の遺留分権利者は 直系卑属・配偶者・直系尊属 の3者
- 直系卑属・配偶者は法定相続分の2分の1、直系尊属は3分の1
- 請求できる期間は「知った時から1年」かつ「相続開始から10年」
- 背倫的な相続人の相続権喪失、寄与した相続人への贈与保護など、例外規定が新設された
遺留分とは — 遺言でも奪えない最低限の取り分
被相続人(亡くなった方)は、原則として自分の財産を遺言や生前贈与で自由に処分できます。しかし、その自由を最後まで押し通すと、長年連れ添った配偶者や子が何も受け取れない結果が生じることがあります。遺留分制度は、こうした場合に備えて、一定の範囲の遺族に法定相続分の一部を「最低限の取り分」として保障する仕組みです。
遺留分の請求は「遺言が間違っているから無効だ」と争うものではありません。被相続人の意思は尊重しつつ、その意思が近い遺族の生活や期待を過度に侵害しないよう、法律が引いた限界線を根拠に不足分を請求するものです。現在、韓国で遺留分を主張できる人と割合は次のとおりです。
| 遺留分権利者 | 遺留分の割合 |
|---|---|
| 直系卑属(子・孫など) | 法定相続分の2分の1 |
| 配偶者 | 法定相続分の2分の1 |
| 直系尊属(父母など) | 法定相続分の3分の1 |
| 兄弟姉妹 | 廃止(憲法裁判所 2024年4月25日 2020헌가4等 決定) |
ここでいう「法定相続分の2分の1」は、すぐに受け取れる金額ではなく、計算の出発点です。実際の請求額は、後述する算定の過程を経てはじめて定まります。
2024年の憲法裁判所決定と2026年改正で変わった3つのこと
韓国の遺留分制度は、長く大きな改正がないまま運用されてきましたが、近年その内容が見直されました。出発点となったのが、韓国憲法裁判所 2024年4月25日 2020헌가4等 決定です。この決定を受けて民法が改正され、2026年3月17日に施行されています。在日韓国人や日本の相続人に関わりの深い変更点は、次の3つです。
① 兄弟姉妹の遺留分が廃止された
従来は被相続人の兄弟姉妹にも遺留分が認められていましたが、憲法裁判所はこれを違憲と判断し、改正民法第1112条はその規定(第4号)を削除しました。被相続人に子も親もなく兄弟姉妹が相続人となる事案では、遺言や贈与による財産処分の自由が、以前より広く認められることになります。子のいない在日韓国人の相続などでは、結論が大きく変わり得るポイントです。
② 寄与した相続人への贈与は遺留分から保護される
被相続人を長年にわたり扶養・介護したり、財産の維持・増加に特別に貢献した相続人が、その見返りとして生前に贈与を受けていた場合、改正前はその贈与まで遺留分の対象に取り込まれ、貢献していない他の相続人に返さなければならない不合理が生じ得ました。改正民法第1008条但書は、こうした「寄与に対する補償として行われた贈与」を、寄与に相応する範囲で遺留分算定の特別受益から除外することを明らかにしました(同条は第1118条により遺留分にも準用されます)。
③ 背倫的な相続人は相続権を喪失させられる
改正民法第1004条の2は、被相続人に対する重大な扶養義務違反や、被相続人・その配偶者・直系血族に対する重大な犯罪行為その他著しく不当な待遇があった場合に、家庭法院が相続権の喪失を宣告できる制度(相続権喪失宣告)を新設しました。相続権を失った人は、そもそも遺留分も主張できません。ただし喪失が認められるかどうかは、事由の経緯や程度、被相続人との関係、相続財産の規模などを総合考慮して家庭法院が判断するため、ハードルは決して低くありません。
これらの改正は、適用される相続の時期によって扱いが異なり得ます。ご自身の事案にどの規定が適用されるかは、相続開始の時点をふまえた個別の確認が必要です。
日本の遺留分との違い — 在日・日本の相続人が押さえるべき点
韓国に相続が関わる方の多くは、日本の遺留分制度をある程度ご存じです。両国の制度は出発点こそ似ていますが、適用される法律も算定の枠組みも別物です。比較の目安として整理すると、次のようになります。
| 項目 | 韓国 | 日本(参考) |
|---|---|---|
| 兄弟姉妹の遺留分 | 廃止(2026年施行) | 従来からなし |
| 遺留分権利者 | 直系卑属・配偶者・直系尊属 | 配偶者・子(直系卑属)・直系尊属 |
| 割合の考え方 | 各権利者ごとに「法定相続分の1/2(直系尊属は1/3)」 | 財産全体に対する総体的遺留分(原則1/2、直系尊属のみは1/3)を法定相続分で按分 |
| 権利の性質 | 遺留分返還請求 | 遺留分侵害額請求(2019年改正で金銭債権化) |
| 時効 | 知った時から1年/相続開始から10年 | 知った時から1年/相続開始から10年 |
※日本側の取扱いは比較の参考であり、最新の運用は日本の専門家にご確認ください。在日韓国人の相続では、被相続人の本国法(国籍)がどちらの法律によるかという「準拠法」の判断自体が問題になることがあり、ここを誤ると遺留分の有無・割合の前提が崩れます。韓国の財産・韓国籍が関わる場合は、韓国法を前提とした検討が出発点になります。
遺留分はどう計算されるのか — 取り戻せる額は算定で決まる
遺留分を計算するには、まず「基礎財産」を定めます。基礎財産は、相続開始時に被相続人が有していた財産に一定の生前贈与を加え、債務を控除した金額です(韓国民法第1113条)。争いの大半は、どの贈与をいくらで加えるかという評価をめぐって起こります。
たとえば、共同相続人の一人が何年も前に多額の贈与(特別受益)を受けていた場合、その贈与を基礎財産にどう取り込むか、不動産であればいつの時点の価格で評価するかによって、各人が取り戻せる額は大きく変わります。さらに前述の②寄与に対する贈与の保護が絡むと、評価はいっそう複雑になります。「法定相続分の半分」という数字だけでは結論は出ず、贈与・遺贈の履歴を一つずつ法的に評価し直す作業が避けられません。
また、遺留分の返還を求める権利は、遺留分権利者が相続開始と返還すべき贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅し、相続開始から10年を経過したときも消滅します(韓国民法第1117条)。二つの期間のうち先に到来する方が基準となるため、「知った」と評価される時点をめぐって、想像より早く期限が迫ることがあります。海外に居住していて連絡や書類のやり取りに時間がかかる相続人ほど、この1年の壁は重くのしかかります。
韓国の遺留分をめぐってお困りの方へ
遺留分の事案は、「自分はいくら受け取れるのか」「逆に請求された側として、どこまで応じる必要があるのか」という金額の見通しが最初の関心事になります。しかしその金額は、本国法の判断、生前贈与の評価、特別受益や寄与の扱い、そして時効という時間的制約が複雑に絡み合って決まります。韓国の機関とのやり取りはすべて韓国語で行われ、日本に居住したまま進める場合はなおさら、早い段階での見通しの整理が結果を左右します。
ヨヘ(如海)法律事務所は、韓国の相続・遺留分の事案を、日本語でのご相談から一貫して扱っています。在日韓国人の相続や、韓国に財産を残して亡くなった方の日本在住のご遺族からのご相談にも対応しています。まずは事案の概要をお送りいただければ、取り得る選択肢と見通しをご説明します。
Pyoung-ho Kim 弁護士(金平浩・キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。ソウル家庭法院選任の成年後見人として後見業務を遂行。2021年 大韓弁護士協会 優秀弁護士賞受賞。
2014年以来、民事・刑事・家事など全分野で累計500件以上の事件を担当。
ヨヘ(如海)法律事務所 — ソウル特別市瑞草区法院路16、406号(瑞草洞、正谷ビル)
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度は改正され得るため、具体的な事案については弁護士にご相談ください。