日本では、主に厚生年金記録の標準報酬を離婚時に分割する合意分割・3号分割の制度があります。これに対し韓国には、日本と同じ形で年金記録を離婚時に移す制度はありません。韓国 離婚 年金分割を考えるとき、韓国では年金を性質の異なる二つのルートで扱う、という点をまず押さえておく必要があります。一つは離婚時の財産分与(韓国民法第839条の2)の対象として退職年金・退職金を清算する方法、もう一つは国民年金法上の「分割年金」という独立した社会保障上の仕組みです。対象も、要件も、請求できる時期も異なります。

日韓夫婦の離婚では、配偶者が韓国で長く働いて積み上げた退職金や年金が、夫婦の財産のなかで最も大きな比重を占めることが少なくありません。「年金は分けてもらえないのか」という入口で結論を見誤ると、本来受け取れたはずの清算を取りこぼすことがあります。この記事では、二つのルートの違いと、日本人配偶者が特に注意すべき点を、韓国の弁護士の視点で整理します。

韓国に「年金分割」という単一制度はない ― 二つのルート

日本の年金分割は、主に厚生年金記録の標準報酬を離婚時に分割する仕組み(合意分割・3号分割)です。これに対して韓国では、年金記録をそのまま離婚時に移すのではなく、年金が次の二つに分かれて扱われます。性質が違うため、どちらか一方だけを考えていると判断を誤ります。

ルート 根拠 対象 性格
① 財産分与 韓国民法 第839条の2 退職年金・退職金など婚姻中に形成された実質的共同財産 離婚時に裁判所が清算・分配
② 分割年金 国民年金法 第64条 元配偶者の老齢年金のうち婚姻期間に対応する部分 法定要件を満たした本人が将来受け取る年金

ルート①|財産分与の対象としての退職年金・退職金

韓国民法第839条の2の財産分与は、婚姻中に取得した実質的な共同財産を清算・分配することを主な目的とする制度です。第839条の2は協議離婚の財産分与請求権を定めた規定ですが、裁判上の離婚にも民法第843条により準用されます。いずれの場合も、裁判所は財産形成への寄与の程度など一切の事情を考慮して分割の額と方法を定め、財産分与請求権は原則として離婚から2年を過ぎると行使できなくなります。

退職年金がこの対象になるかは、かつて争いがありました。大法院は、少なくとも離婚訴訟の事実審終結時に一方がすでに受給していた公務員退職年金について、婚姻期間中の勤務に対応する部分は財産分与の対象になり得るとし、毎月受け取る年金額の一定割合を相手方に定期的に支払う「定期金」方式での分割も可能だと判断しています(大法院 2014年7月16日宣告 2012ム2888判決)。公務員退職年金には社会保障的な給付という性格だけでなく、賃金の後払いという性格も分かちがたく含まれている、というのがその理由です。

注意したいのは、これがあくまで「すでに受給中の公務員退職年金」をめぐる判断だという点です。一般企業の退職金・退職年金や、まだ受給していない将来の給付については、制度の種類・発生時期・評価の可能性・他の財産との関係により、財産分与の対象となるか、どう評価するかが個別に判断されます。同じ「退職年金がある離婚」でも、婚姻期間・寄与の内容・他の財産構成によって結論は一つになりません。定期金とするか一括清算とするか、他の一般財産と分けて個別に割合を定めるか――といった判断も重なります。

ルート②|国民年金法上の「分割年金」

もう一つが、国民年金法第64条の分割年金です。これは離婚時に裁判所が清算する財産分与とは別の、法律が定める独立した受給権です。日本の3号分割に近い発想ですが、要件とタイミングが異なります。

条文は、婚姻期間(別居・家出など実質的な婚姻関係がなかった期間を除く)が5年以上であることを前提に、次の三つをすべて満たした場合に、その時から分割年金を請求できると定めています。

✓ 元配偶者と離婚したこと
✓ 元配偶者が老齢年金の受給権者であること
✓ 本人が出生年別の分割年金支給開始年齢(現在は61〜65歳)に達したこと。条文上の文言だけでなく、実際の支給開始年齢を個別に確認する必要があります

分割年金の額は、原則として元配偶者の老齢年金額のうち婚姻期間に対応する部分を均等に分けた金額です。ただし当事者の合意や裁判によって分割の割合を別に定める余地もあります。さらに、この請求には期間制限があり、要件をすべて満たした時から5年以内に請求しなければなりません。離婚そのものは成立していても、相手がまだ年金を受給していない・本人が年齢要件に届いていない、といった理由で「今はまだ請求できない」状態が続くことがある点に注意が必要です。

日本の年金分割との違い

日本人配偶者がつまずきやすいのは、「日本と同じ感覚」で考えてしまう点です。両者の主な違いを整理します。

項目 日本(年金分割) 韓国
制度の形 厚生年金記録(標準報酬)を分割する合意分割・3号分割 財産分与(民法)と分割年金(国民年金法)の二本立て
退職金・私的年金 年金分割の対象外(財産分与で別途) 公務員退職年金は財産分与の対象になり得る(その他は種類・時期により個別判断)
公的年金の分割タイミング 離婚時に記録を分割 分割年金は年齢・受給権など要件を満たした時から
請求の期限 原則 離婚から2年 財産分与は離婚から2年/分割年金は要件充足から5年

つまり、韓国では「離婚と同時にすべての年金がきれいに分割される」とは限りません。退職年金は離婚時の財産分与で扱い、国民年金は将来の分割年金として別に動く――この二つの時間軸を取り違えると、請求できたはずのものを期間制限で失うおそれがあります。財産分与のより一般的な基準については韓国 離婚 財産分与の基準もあわせてご覧ください。

日本人配偶者が特に注意すべき点

日韓をまたぐ離婚では、年金の清算がいっそう複雑になります。第一に、日本側の年金と韓国側の年金が同時に問題になる場合、どちらの国の制度で何を請求するのかを切り分ける必要があります。第二に、韓国の財産分与・分割年金の手続きはすべて韓国語で進み、相手方が提出する資料や年金額の評価をめぐって主張が分かれることもあります。第三に、相手が韓国を離れたり資産の状況が変わったりすると、評価や履行の見通しが変わります。

とりわけ時間の要素は見落とされがちです。財産分与は離婚成立から、分割年金は要件を満たしてから、それぞれ別の期間制限が走ります。「いつか手続きすればよい」と考えているうちに、一方の窓が閉じてしまうことがあります。どの順序で、いつ動くべきかは、婚姻期間・相手の就労や年金の状況・他の財産との兼ね合いによって変わるため、早い段階で全体像を確認しておくことが選択肢を広げます。

よくある質問(FAQ)

Q. 韓国に日本のような「年金分割」制度はありますか?
A. 韓国には、日本の合意分割・3号分割のように年金記録(標準報酬)を離婚時に分割・移転する単一の制度はありません。年金は、財産分与(民法第839条の2)の対象としての退職年金・退職金と、国民年金法上の「分割年金」という二つの異なる仕組みで扱われ、対象・要件・タイミングが異なります。

Q. 韓国人配偶者の退職年金は財産分与で分けてもらえますか?
A. 大法院は、少なくとも離婚訴訟の事実審終結時にすでに受給していた公務員退職年金について、婚姻期間に対応する部分は財産分与の対象になり得ると判断しています(大法院 2014年7月16日宣告 2012ム2888判決)。一般企業の退職金・退職年金や未受給の将来給付は、制度の種類・発生時期・評価可能性などにより個別に判断されます。

Q. 韓国の国民年金の「分割年金」は誰がいつ請求できますか?
A. 国民年金法第64条は、婚姻期間が5年以上であることを前提に、①元配偶者と離婚したこと、②元配偶者が老齢年金の受給権者であること、③本人が出生年別の分割年金支給開始年齢(現在は61〜65歳)に達していること、をすべて満たした場合に分割年金を請求できると定めています。請求は要件を満たした時から5年以内に行う必要があります。

Q. 日本に住んでいても韓国の年金分割・財産分与を請求できますか?
A. 居住地が日本であっても請求できる場合があります。ただし財産分与は離婚成立からの期間制限(韓国民法上2年)があり、手続きはすべて韓国語で進みます。日韓両国の年金が関わる場合は、早い段階で確認することで選択肢が広がります。

韓国の退職年金・国民年金が関わる離婚は、「分けられるか」だけでなく「どのルートで・いつ・どの割合で」という複数の判断が重なります。同じ状況に見えても、婚姻期間や相手の年金・就労の状況によって結論は変わります。

わたしたちは日韓夫婦の国際離婚・財産分与をめぐる手続きと紛争を扱ってきました。ご自身のケースでどこから検討すべきか分からないときは、まずは基本的な状況をLINEでお聞かせください。
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Pyoung-ho Kim 弁護士(キム・ピョンホ/金平浩)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。
大韓弁護士協会 離婚専門弁護士登録。2021年 優秀弁護士賞受賞。
2014年以来、民事・刑事・家事など全分野累計500件以上の事件を担当。

※本記事は一般的な法律情報であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。年金分割・財産分与の可否や金額は個別の事情により異なります。実際の判断にあたっては、韓国の弁護士にご相談ください。判例・法令は記事作成時点のものです。