日韓夫婦の離婚理由を韓国で検討する場合、まず確認すべきなのは「どの法律上の離婚原因に当たるのか」です。協議が成立しないときは、韓国民法第840条が定める6つの裁判上の離婚原因のいずれかを、事実と証拠で説明する必要があります。

このページでは、日韓夫婦が韓国で離婚を進める際に問題となりやすい有責事由、証拠収集の注意点、日本法との違い、最近の大法院判例を、日本語で整理します。

韓国民法第840条 — 6つの裁判上の離婚原因

韓国民法第840条は、夫婦の一方が次の事由を主張して家庭法院に離婚を請求できると定めています。

条項 離婚原因 主な該当例
第1号 配偶者に不貞行為があったとき 不倫、性的関係を伴う交際、宿泊・旅行・金銭支出の記録など
第2号 配偶者が悪意で他方を遺棄したとき 正当な理由のない別居、生活費の継続的な不払い、扶養義務の放棄
第3号 配偶者またはその直系尊属から著しく不当な扱いを受けたとき 身体的・精神的DV、暴言、経済的支配、義父母による虐待
第4号 自己の直系尊属が配偶者から著しく不当な扱いを受けたとき 自分の親に対する暴力、侮辱、継続的な嫌がらせ
第5号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき 長期行方不明、連絡途絶、所在不明
第6号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき 長期別居、深刻な信頼破壊、依存症、重大な犯罪、家庭の経済的基盤の破壊など

日本民法第770条には「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という独立した離婚原因がありますが、韓国民法第840条には同じ独立号はありません。韓国では、精神疾患そのものではなく、婚姻関係の破綻の程度、治療経過、扶養・保護の可能性などを第6号の「重大な事由」の中で総合的に判断します。

第1号:不貞行為と証拠の組み立て

不貞行為は、配偶者の意思に反して他人と性的関係を持つ場合が典型です。LINE、KakaoTalk、SNSの親密なメッセージも証拠になり得ますが、相手方が「業務上の連絡」「単なる好意表現」と弁明する余地が残ることがあります。そのため、ホテル利用記録、写真、旅行・宿泊の履歴、カード明細、第三者の陳述など、より直接的な資料と組み合わせると立証力が高まります。

証拠収集では、配偶者のスマートフォンへの無断アクセス、アカウントの不正ログイン、位置追跡アプリの無断設置、第三者間の会話の盗聴などは、刑事上・民事上のリスクを伴います。もっとも、家事訴訟では、収集方法に問題がある資料でも、直ちに証拠として使えないと判断されるとは限りません。証拠として利用できるかという問題と、収集行為自体に刑事・民事上の責任が生じるかという問題は、分けて検討する必要があります。

第2号:悪意の遺棄

悪意の遺棄とは、正当な理由なく同居・扶養・協力義務を放棄することです。単なる別居では足りず、婚姻共同生活を維持しようとしない意思や態度が問題になります。

実務上は、生活費の送金が途絶えた通帳記録、生活費を求めるメッセージへの無応答、別居の経緯、子どもの養育費・生活費を一方だけが負担してきた資料などが重要になります。

第3号・第4号:DV、暴言、親族への不当な扱い

身体的暴力だけでなく、継続的な暴言、人格否定、脅迫、経済的支配、孤立化も婚姻関係を破綻させる事情として問題になります。診断書、治療記録、怪我の写真、警察通報記録、保護命令関連書類、録音、メッセージ、周囲の陳述などを時系列で整理することが重要です。

韓国では、配偶者本人からの不当な扱いだけでなく、配偶者の直系尊属から著しく不当な扱いを受けた場合や、自分の直系尊属が配偶者から著しく不当な扱いを受けた場合も、別個の離婚原因として定められています。

第6号:婚姻を継続し難い重大な事由

第1号から第5号までの事由が明確に立証できない場合でも、婚姻関係が回復できない程度に破綻していれば、第6号が問題になります。長期別居、深刻な信頼破壊、依存症、継続的な経済的無責任、家庭共同体の経済的基盤を危うくする行為などが、事案によって検討対象になります。

大法院2021므15480判決(2022年5月26日)は、海外滞在を繰り返し、生活費をほとんど支払わず、相手方が子どもの養育費と生活費を単独で負担した事案で、婚姻関係が回復不能な程度に破綻したと見る余地を認めました。一般論として、婚姻関係が破綻している場合、原告の責任が被告より重いと認められない限り、離婚請求は認容されるべきであるという基準も示しています。

また、大法院2025므10730判決(2025年9月4日)は、夫婦が共同で形成した財産の主要部分を、正当な理由なく相手方の同意なしに一方的に処分し、家庭共同体の経済的基盤を形骸化または危うくする行為が、第840条第6号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たり得ると判断しました。

韓国法と日本法の主な違い

論点 韓国法 日本法
裁判上の離婚原因 民法第840条の6事由 民法第770条の各事由
有責配偶者からの離婚請求 原則として慎重。相手方の責任、破綻の程度、未成年子の有無などを総合判断 原則として慎重。長期別居などの事情により例外が問題になる
精神疾患 独立号はなく、第6号で総合判断 民法第770条第1項第4号として独立規定あり
親族への不当な扱い 第3号・第4号で明文上問題になる 独立号はなく、婚姻を継続し難い重大な事由などで検討
調停との関係 調停前置の構造があり、訴訟提起後に法院が調停に付すことも多い 家事事件では調停前置主義が明確に運用される

韓国での離婚訴訟の進め方

韓国で協議離婚ができない場合、家庭法院に離婚訴訟を提起し、離婚原因、慰謝料、財産分与、親権者・養育者、養育費、面会交流などを一緒に整理することが多くあります。

韓国の家事事件には調停前置の構造があります。ただし、実務上は、当事者がまず訴訟を提起し、その後に法院が事件を調停に付す形で進むことも少なくありません。そのため、日本のように「まず調停申立てだけを行い、調停不成立後に訴訟へ進む」と単純に理解すると、韓国実務との違いを見落とすことがあります。

日本在住の配偶者が当事者になる場合は、国際送達、翻訳、委任状、本人出廷の要否、日本の戸籍への反映、F-6などの在留資格への影響もあわせて確認する必要があります。

日韓夫婦が証拠収集で注意すべきこと

証拠は、相手を追い詰めるために集めるものではなく、裁判所に事実関係を理解してもらうために整理するものです。違法リスクのある方法に踏み込む前に、すでに持っているメッセージ、送金記録、診療記録、警察記録、写真、生活費の負担資料を時系列でまとめるだけでも、事件の見通しはかなり明確になります。

特に日韓夫婦の事件では、韓国語・日本語の資料が混在し、韓国法院に提出する翻訳の正確性も問題になります。証拠の内容だけでなく、誰が、いつ、どのように作成・取得した資料なのかを説明できる形にしておくことが重要です。

まとめ

日韓夫婦の離婚理由は、不貞、悪意の遺棄、DV、長期別居、経済的基盤の破壊など、事実関係によって整理の仕方が変わります。韓国民法第840条のどの事由に当たるか、証拠をどのように安全に提出できるか、日本の戸籍・在留資格・子どもの問題にどう影響するかを、一体として検討する必要があります。

YEOHA法律事務所は、韓国での国際離婚、日韓夫婦の財産分与、親権・養育費、在留資格問題を含む事件を取り扱っています。日本語でご相談いただけます。