当事務所の実務でも、日韓夫婦からの国際離婚相談は年々増加しています。中でも多いのは「韓国で結婚・生活しているが、どちらの国の裁判所に申し立てればよいかわからない」「財産は韓国と日本の両方にあるが、どの国の法律で分けるのか」「子どもの親権はどうなるのか」といった相談です。こうした問いへの答えは、夫婦の居住地・国籍・婚姻締結地・財産の所在地などの組み合わせによって変わります。同じ日韓夫婦でも、ケースごとに適用される法律と結果が全く異なる点が、国際離婚の本質的な難しさです。
1. どちらの国の法律が適用されるか(準拠法の問題)
国際離婚でまず決定しなければならないのが「準拠法(どの国の法律を基準に判断するか)」です。韓国では国際私法(국제사법)第64条・第65条・第66条が、日本では「法の適用に関する通則法」第25条・第27条が、それぞれ離婚・夫婦財産制・親族関係の準拠法判断に関わります。
韓国国際私法の原則:韓国国際私法では、離婚について第66条が第64条を準用します。第64条は、①夫婦の同一本国法、②夫婦の同一日常居所地法、③夫婦と最も密接な関係のある地の法という順序で準拠法を判断します。夫婦財産制については第65条が第64条を準用し、一定の方式による準拠法選択も認めています。日本人と韓国人の夫婦は通常「同一本国法」がないため、韓国で共同生活をしている場合には、同一日常居所地法として韓国法が問題となるのが一般的です。
| 判断基準 | 韓国国際私法(第64条・第66条) | 日本の通則法(第25条・第27条) |
|---|---|---|
| 第一順位 | 夫婦の同一本国法 | 夫婦の同一本国法 |
| 第二順位 | 夫婦の同一日常居所地法 | 夫婦の同一常居所地法 |
| 第三順位 | 夫婦と最も密接な関係のある地の法 | 夫婦に最も密接な関係がある地の法 |
| 重要な例外 | 夫婦の一方が韓国に日常居所を有する韓国国民である場合、離婚は韓国法 | 夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人である場合、離婚は日本法 |
| 日韓夫婦が韓国在住の場合 | → 同一本国法がないため、通常は共通の居住実態・最密接関係を中心に韓国法適用が検討されます。 | |
ここで注意が必要なのは、「どちらの国の裁判所に申し立てるか(国際裁判管轄)」と「どちらの国の法律が適用されるか(準拠法)」は別の問題だという点です。韓国の家庭裁判所に申し立てても、場合によっては日本法が準拠法となることもあります。この判断を誤ると、財産分与の計算基準や親権の判断基準が根本から変わってしまうため、手続きの最初の段階で確認が必要です。
2. 財産分与 — 韓国法と日本法の違い
日韓夫婦の離婚相談で最も判断が複雑になるのが財産分与です。韓国民法と日本民法では、分与割合の考え方・対象財産の範囲・基準時点の算定方法がそれぞれ異なります。
| 比較項目 | 韓国法 | 日本法 |
|---|---|---|
| 基本的な分与割合 | 婚姻中の形成財産を実質的寄与度で算定 家事・育児も重要な寄与として評価され得ますが、割合は個別事情で判断 | 婚姻中の共有財産を原則2分の1で分割 (実務上の慣行) |
| 特有財産(婚前財産・相続財産) | 原則として分割対象外だが、維持・管理への寄与は考慮可 | 原則として分割対象外 |
| 基準時点 | 事実審口頭弁論終結時が原則 (ただし破綻後の変動は除外可) | 別居時または調停・審判申立時が実務上の基準 |
| 海外財産の扱い | 日本所在財産も分与算定で問題となり得るが、証拠確保・保全・執行は別途検討 | 韓国所在財産も分与算定で問題となり得るが、証拠確保・保全・執行は別途検討 |
韓国法では、名義だけでなく婚姻中の財産形成・維持への実質的寄与を見ます。家事・育児も重要な寄与として評価され得ますが、割合は婚姻期間、財産の出所、収入、子の養育、資産維持への関与などにより個別に判断されます。大法院(2024므13669・13676、2025年10月16日 선고)は、財産分割における実質的寄与や、混姻破綻後の財産変動をどのように扱うかについて判断を示しており、名義だけで結論が決まらない点に注意が必要です。海外財産は分与算定で問題となり得ますが、所在国での証拠確保・保全・執行可能性は別途検討が必要です。
日本人配偶者にとって特に問題になりやすいのは、韓国在住中に積み立てた退職年金・韓国の不動産・日本の実家から贈与を受けた資金の扱いです。これらが「婚姻財産」として分割対象になるかどうかは、個々の証明書類と主張の組み立て方によって結果が変わります。
3. 親権・養育権 — 韓国と日本の根本的な違い
日韓夫婦の離婚において、子どもの親権は両国の法制度の違いが最も鮮明に表れる領域です。
日本法の原則:2026年4月以降の日本法では、離婚後の親権者を単独または共同で定める選択肢があります。ただし、裁判所は子の利益、DV・虐待のおそれ、父母間の協力可能性、子の生活の安定などを総合して判断します。共同親権が選択肢に入る場合でも、具体的な監護体制・面会交流・重要事項の決定方法は別途整理が必要です。
韓国法の原則:韓国でも親権者と養育者の指定、面接交渉、日常の監護体制は分けて検討されます。父母の協議または家庭裁判所の審判によって共同親権が認められることはありますが、共同親権が常に共同監護や全ての決定の共同化を意味するわけではありません。韓国在住の日韓夫婦の場合、韓国法が適用されるか、子どもの生活実態がどこにあるかを前提に、親権・養育者・面接交渉を個別に設計する必要があります。
また、韓国での親権・養育権の審判では、子どもの意思を確認する手続、監護実績、生活環境の安定性、兄弟姉妹の関係、DV・虐待・連れ去りリスクなどが総合的に判断されます。「どちらが有利か」は子どもの年齢・状況によって全く異なるため、手続きに入る前に法的見通しを確認することが重要です。
4. 日本人配偶者が韓国離婚手続きでぶつかる特有の困難
当事務所が日韓夫婦の案件で繰り返し確認している困難があります。制度を知っているだけでは対処できない、実務上の壁です。
言語の壁:韓国の家庭裁判所に提出する書類・陳述書・証拠説明書はすべて韓国語です。相手方が提出した書類の内容を正確に把握できないまま手続きが進み、不利な内容を承認してしまうケースは少なくありません。
戸籍・身分関係の処理:離婚確定後、韓国の戸籍(가족관계등록부)と日本の戸籍の両方に反映させる必要があります。在韓日本大使館または日本の市区町村役場への届出手続きが必要ですが、書類の種類・翻訳認証・期限管理を誤ると、子どもの国籍・戸籍に影響が生じる場合があります。
在留資格への影響:韓国在住の日本人配偶者がF-6で滞在している場合、離婚後の在留資格は婚姻破綻の理由、韓国人配偶者との子の養育状況、滞在履歴、収入・素行要件などによって変わります。離婚後も直ちに滞在が不可能になるとは限りませんが、F-6の類型変更、延長可否、他の在留資格への変更可能性を早い段階で確認する必要があります。離婚手続きと在留資格の問題は、同時に証拠とスケジュールを整理することが重要です。
5. どちらで進めるかは「状況の組み合わせ」で変わる
国際離婚の手続きには、①どちらの国の裁判所に申し立てるか、②どちらの国の法律が適用されるか、③協議・調停・審判のどのルートで進めるか、という三つの判断が絡み合っています。どれか一つを単独で決めることはできず、相手方の国籍・居住地・財産の所在・子どもの状況・相手との交渉可能性などを踏まえて方針を組み立てる必要があります。
国際離婚手続きについては、日韓国際離婚の全体手続きと弁護士費用のページでも詳しく説明しています。
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Pyoung-ho Kim 弁護士(キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。
韓国弁護士協会 家族法専門弁護士登録。2021年 優秀弁護士賞受賞。
2015年以来、500件以上の事件を担当。