当事務所の実務でも、在韓日本人の方から「韓国で大麻を所持・使用したらどうなりますか」というご相談が増えています。カナダや一部の米国州で大麻が合法化されているため、「韓国でも多少は大目に見てもらえるのでは」と考える方が少なくありません。しかし実態はまったく異なります。韓国の麻薬類管理に関する法律(마약류관리에관한법률)は大麻を他の違法薬物と同等に規制しており、初犯であっても実刑(執行猶予なし)になり得る厳しい法体系です。ビザへの影響を含め、在韓日本人が知っておくべき韓国 麻薬 刑罰の実務を解説します。
韓国の薬物分類と「大麻」の位置づけ
韓国では麻薬類を大きく三種類に分類して規制しています。①麻薬(헤로인・모르핀など)、②向精神薬(필로폰〔覚醒剤〕・MDMA・合成大麻など)、③大麻(대마)です。日本でも大麻取締法により大麻は厳しく禁止されていますが、日本では大麻草の使用・所持に対する処罰が一部の州や国より緩やかと見られがちです。韓国はこうした国際的な「大麻合法化トレンド」と一線を画し、現在も大麻を単独の規制薬物カテゴリーとして厳格に管理しています。
重要なのは、分類上の「位置づけ」ではなく、実際の刑事処罰の重さです。韓国の裁判所は薬物事犯に対し日本と比べて量刑が重く、外国人被告に対しては強制退去(強制出国)が付加されることも多くあります。
韓国 麻薬 刑罰の具体的な法定刑
| 薬物の種類 | 行為 | 法定刑(最高) | 初犯の実務傾向 |
|---|---|---|---|
| 大麻(대마) | 吸煙・摂取・所持 | 5年以下の懲役または5,000万ウォン以下の罰金 | 執行猶予付き懲役が多いが、量が多い場合・外国人の場合は実刑も |
| 大麻(売買・あっせん・輸出入等) | 行為類型ごとに区分 | 適用条文により大きく異なる | 単純使用より重く評価される |
| 大麻(常習性・営利目的が問題となる場合) | 使用・所持・取引等 | 常習性・営利目的の有無により加重 | 実刑リスクを個別検討 |
| 向精神薬(필로폰・MDMA等) | 投薬・所持・交付等 | 薬物の分類・行為類型ごとに異なる | 単純事件でも重く処罰され得る |
| 麻薬(ヘロイン・モルヒネ等) | 輸出入・製造・売買等/所持・使用・投薬等 | 行為類型により第58条・第59条等で大きく異なる | 薬物分類と行為類型ごとの確認が必要 |
向精神薬・麻薬は種類と行為類型により法定刑が大きく分かれます。ヘロイン・モルヒネ等についても、輸出入・製造・売買、その目的での所持、単純な所持・使用・投薬などを分けて、第58条・第59条等に基づく刑を個別に検討する必要があります。大法院 2025도11062は、合成大麻使用に関する不能未遂の成否が問題となった事件であり、合成大麻関連行為も麻薬類管理法上厳格に扱われることを示す参考判例として位置づけるのが安全です。
日本との決定的な違い — なぜ韓国で特に注意が必要か
| 比較項目 | 韓国 | 日本 |
|---|---|---|
| 大麻の法的地位 | 全面禁止(麻薬類管理法) | 全面禁止(大麻取締法) |
| 大麻吸煙・所持の初犯処罰 | 懲役刑(執行猶予または実刑) | 制度改正後の運用も含め個別確認が必要 |
| 覚醒剤(필로폰)初犯 | 薬物分類・行為類型ごとに重い処罰リスク | 10年以下の懲役(執行猶予の場合も) |
| 外国人への追加処分 | 強制退去・在留資格取消し・再入国禁止のリスク | 退去強制の可能性あり |
| 国際刑事司法協力 | 日韓刑事司法共助条約あり(捜査共助・証拠収集) | 同左 |
在韓日本人が直面する特有の困難
薬物事件で逮捕・拘束された日本人の方が当事務所に相談される際、共通する困難が三つあります。
第一に言語の壁です。警察の取調べは原則韓国語で行われます。通訳が付いても、法律用語の誤訳や重要な権利告知(黙秘権、弁護人選任権)の説明が不十分なまま調書に署名してしまうケースがあります。自白調書が作成された後では、公判段階での争いが格段に難しくなります。
第二に身体拘束と手続の問題です。逮捕後は原則として48時間以内に釈放するか、検察を通じて拘束令状を請求するかが判断されます。令状が発付されると、捜査段階で警察・検察の拘束期間が続きますが、起訴前の上限と起訴後の裁判所段階の拘束は区別して考える必要があります。捜査段階では拘束適否審査など別の手続を検討します。
第三にビザ・在留資格への影響です。薬物事件で有罪となった外国人は、強制退去・在留資格取消し・再入国禁止の対象となる可能性が高く、特に長期ビザ保有者は刑事事件とは別に出入国手続への対応が必要です。期間や処分内容は、在留資格、犯罪内容、刑の重さ、再犯リスク、韓国内の生活関係などにより異なります。
「海外で合法だったから」は韓国では通用しない
当事務所でご相談を受けるケースの中には、カナダや米国の合法州で大麻を使用した経験がある方が、韓国滞在中にも同様の感覚で入手・使用し、検挙されるケースがあります。外国で合法だった事情は、韓国国内での所持・使用を正当化する理由にはなりません。ただし、具体的な認識、経緯、所持量、量刑事情は事件ごとに検討されます。また、日本で大麻に関与した行為については、日本法上の国外犯処罰が問題になるケースもあります。
さらに、韓国の捜査機関はSNSメッセージ、クレジットカード明細、携帯電話の位置情報を積極的に証拠収集します。日韓刑事司法共助条約に基づき、必要に応じて日本側の捜査機関と情報を共有することも可能です。「短期の使用だから証拠がない」という判断は非常に危険です。
薬物の種類・量・使用目的・回数・使用者の地位などが組み合わさると、同じ「初犯」でも量刑の幅が大きく変わります。弁護士が早期に介入することで、身体拘束を争う手続、証拠の争い方、量刑資料の準備、強制退去処分の回避に向けた対応が変わります。詳しくは韓国の薬物事件・外国人弁護のページもご参照ください。
逮捕・捜査を受けた場合の初動対応
万一、薬物事件で韓国当局の捜査を受けた場合、最初の対応が結果を大きく左右します。弁護人の助言を受けるまでは不用意な供述や署名を避け、「弁護人を選任したい(변호인을 선임하고 싶습니다)」と明確に伝え、黙秘権・弁護人選任権を行使することが重要です。その後、韓国語に堪能な弁護士に速やかに連絡し、拘束令状審問(구속전피의자심문)などの初期手続に備える必要があります。
薬物の種類、発覚の経緯、捜査の段階によって取るべき対応が異なります。同じ大麻所持でも、単純所持と売買の疑いがある場合では戦略が根本から変わります。早期相談が具体的な対応策につながります。LINEから事案の概要をお知らせいただければ、弁護士が状況を確認した上でご返答します。
なぜ早期相談が必要か
薬物の種類・量・使用状況・拘束の有無——これらの組み合わせ次第で、対応策と見通しは大きく変わります。ご自身の状況が本文の事例とどう異なるかが不明な場合は、まずLINEで基本的な状況をご確認ください。
Pyoung-ho Kim 弁護士 (金平浩 / キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。
韓国弁護士協会 家族法専門弁護士登録。2021年 優秀弁護士賞受賞。
2015年以来、500件以上の事件を担当。