「韓国人配偶者と離婚することになったが、国際離婚で管轄が韓国と日本のどちらか分からない」——このページにたどり着いた方の多くが、同じ疑問を抱えています。日韓夫婦の国際離婚では、最初の入口でどちらの国の裁判所に申立てるかを誤ると、財産分与・親権の結論や手続きの実効性が大きく変わります。本稿では韓国弁護士の視点から、韓国の家庭法院で国際離婚を進められるのはどのような場合かを中心に、判断基準を整理します。

1. 「管轄」と「準拠法」は別の問題

国際離婚を検討する際に最も誤解されやすいのが、「管轄」と「準拠法」の混同です。両者は概念的にも実務的にも別の判断です。

区分 意味 韓国側の根拠法
国際裁判管轄 どちらの国の裁判所に申立てるか 韓国国際私法 第2条
準拠法 裁判でどちらの国の実体法を適用するか 韓国国際私法 第64条・第66条

韓国の家庭法院に申立てても、準拠法は事案により日本法になることもあります。本稿は 国際離婚における管轄(韓国の家庭法院で進められるか) に焦点を当てて整理します。準拠法の比較については、日韓夫婦の国際離婚 — 韓国法・日本法の違いと準拠法の選び方で詳しく解説しています。

2. 韓国の家庭法院への国際裁判管轄 — 実質的関連性の判断

韓国における国際裁判管轄の根拠条文は韓国国際私法第2条です。同条第1項は「裁判所は、当事者または紛争となった事案が大韓民国と実質的関連があれば、国際裁判管轄権を有する」と定めています。第2項は、国内法(民事訴訟法・家事訴訟法)の管轄規定を参酌しつつ、国際裁判管轄の特殊性を考慮することを求めています。

家事事件における「実質的関連性」の判断要素は、韓国大法院 2017므12552(2021年2月4日 宣告)判決で具体化されました。同判決は、家事事件における国際裁判管轄の判断要素として、①当事者の国籍・住所・常居所、②紛争原因事実が形成された場所、③子の生活地、④財産の所在地、⑤適用される準拠法、⑥証拠収集の容易性、⑦当事者の訴訟遂行の便宜、⑧判決の実効性などを総合考慮するとしました。同判決は当事者の国籍や主たる住所が外国にあっても、離婚請求の主要原因事実が韓国で形成され、韓国所在の財産が分割対象として争われる場合には韓国法院の国際裁判管轄を認める余地が大きいと判示しています。

この判例の判断枠組みは、韓国滞在中に婚姻関係が破綻し、韓国所在財産や子の生活地が争点となる日韓夫婦の事案でも重要な参考基準となります。実際の判断は個別事情の総合考慮によります。

韓国の家庭法院に申立てやすい典型的状況

次のような場合、韓国の家庭法院が国際裁判管轄を有すると判断されやすくなります。

  • 韓国人配偶者が韓国に住所を有する場合(家事訴訟法第13条第1項の普通管轄)
  • 日韓夫婦の一方が韓国に常居所を有し、婚姻生活の中心が韓国にあった場合
  • 離婚請求の主要原因事実(不貞、DV、悪意の遺棄など)が韓国国内で形成された場合
  • 財産分与の主要対象となる不動産・預金・退職年金が韓国に所在する場合
  • 子の主たる生活地が韓国であり、親権・養育の判断にあたって韓国での生活実態が中心となる場合
  • 相手方が韓国法院に応訴し、訴訟手続きに積極的に参加する場合(管轄権認定の肯定的要素として考慮)

一般論として、韓国大法院 2018다230588(2021年3月25日 宣告)は国際裁判管轄が排他的でなく併存し得ると判示しています。ただし、離婚・財産分与・子に関する家事事件では、2017므12552が示す家事事件特有の実質的関連性を別途検討する必要があります。

3. 日本側の管轄が問題となる場合

日本でも2019年4月1日施行の改正人事訴訟法第3条の2が、人事訴訟(離婚等)の国際裁判管轄を明文化しています。同条は7つの管轄原因を列挙しており、被告住所地(第1号)や夫婦の最後の共通住所が日本にある場合(第6号)、被告が行方不明であるなど特別の事情がある場合(第7号)などが含まれます。日本法上の管轄判断は、最終的には日本弁護士・日本の裁判所が判断する事項であり、本稿で詳細に踏み込むことは控えます。

重要なのは、日本側にも管轄が認められる事案であっても、韓国所在の財産・子・生活実態を重視するならば、韓国の家庭法院での訴訟提起が現実的に最も実効性のある選択となる場合が多い、という点です。日本人配偶者が日本に「逆輸入」して訴訟を起こすには、日本への住所移転(居所ではなく住所)が原則必要で、一時帰国のみでは住所要件を満たしません。

4. 韓国の家庭法院で進めることの実務的利点

日韓夫婦の生活基盤や財産が韓国にある場合、韓国の家庭法院で手続きを進めることには次のような実務的利点があります。

考慮要素 韓国の家庭法院で進める実務的利点
韓国所在財産 不動産・預金・退職年金などの保全・財産照会・分与判決後の処理が韓国法上の手続きで一貫対応
子の生活実態 子が韓国で生活している場合、生活環境・養育実績・学校関係の調査が直接的
証拠の所在 韓国国内で形成された不貞・DV・経済関係の証拠(韓国の文書・SNS・診断書等)の収集と提出が容易
家族関係登録の処理 韓国判決は、確定後に必要書類を添えて韓国側の家族関係登録に反映させる手続を進めやすい
F-6ビザ対応 離婚理由・養育状況等の主張・立証を韓国法院での訴訟過程で整理することで、その後の在留資格の検討に必要な資料の準備が可能(在留資格に関する判断は出入国・外国人庁の個別審査によります)
送達・期日 韓国国内当事者には国内送達で進行可能(相手方が日本居住の場合はハーグ送達条約による国際送達が必要)

日韓夫婦の生活基盤・主要財産・子の所在のうち中心がどこにあるかが、管轄選択の最重要要素となります。実際の方針は個別事情によりますので、早期に韓国弁護士に状況をご相談いただくことをお勧めします。

5. 日本人配偶者が韓国の家庭法院で手続きを進める際の実務的論点

韓国で国際離婚手続きを進める場合、日本人配偶者は日本国内の同種事件にはない実務的論点に直面します。

言語の壁:家庭法院に提出する訴状・準備書面・証拠書類はすべて韓国語です。相手方が提出した書面の内容を正確に把握しないまま手続きが進行し、不利な内容を黙認してしまうリスクがあります。韓国側で弁護士に依頼する場合は、日本語での意思疎通が可能な体制かどうかも検討要素となります。

家族関係登録と日本戸籍への反映:韓国の家庭法院で離婚が確定した後、韓国側では家族関係登録への反映手続が、日本側では本籍地役所または在韓日本国大使館を通じた届出手続が、それぞれ別途必要となります。提出書類としては判決確定証明書、日本語訳、戸籍関係書類などが必要となることがあり、提出先ごとの取扱いを事前に確認する必要があります。

F-6ビザへの影響:韓国在住の日本人配偶者がF-6(結婚移民ビザ)で滞在している場合、離婚後の在留資格は離婚理由・子の養育状況・滞在実績・収入要件等によって変わり得ます。在留資格に関する処分は出入国・外国人庁の個別審査により判断されるため、結果は個別事情で変わります。離婚手続きと並行して、F-6の維持可否や他資格への変更可能性を早期に検討する必要があります。

送達・期日対応:日本側当事者の住所が日本にある場合、ハーグ送達条約に基づく国際司法共助で送達が行われ、相当の時間(数か月)を要する場合があります。期日への出席・代理人選任のタイミングを誤ると、不利な経緯で手続きが進行する可能性があります。

6. 管轄の選択は「最初の入口」 — 早期検討の重要性

国際離婚における管轄の選択は、手続き全体の方向性を決める最初の入口です。一度どちらかの国で訴訟を開始した後で他方に切り替えることは事実上極めて困難であり、財産分与・親権・養育費の判断基準も管轄国によって大きく異なります。日韓夫婦の国際離婚で管轄を韓国とするかの判断は、財産の所在、子の生活地、当事者の居住実態、相手方の応訴可能性、判決の実効性などを総合的に勘案して、早期に方針を確定する必要があります。

関連する内部リンクとして、韓国の財産分割の基準については韓国 離婚 財産分与の基準 — 日本法との違い、準拠法の選び方については日韓夫婦の国際離婚 — 韓国法・日本法の違いと準拠法の選び方もご参照ください。

個別の状況(夫婦の居住地、財産の所在、子の年齢、相手方の対応姿勢、F-6ビザの状況等)によって最適な管轄選択は変わります。当事務所では、韓国の家庭法院で進める国際離婚事件を中心に多数の日韓夫婦の事案を取り扱っております。LINEから基本情報をお送りいただければ、初期方針について個別にご案内します。

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よくあるご質問

Q1. 韓国に住んでいる日韓夫婦ですが、韓国の家庭法院に離婚を申し立てられますか?

夫婦の一方が韓国に常居所を有し、婚姻生活の中心が韓国にあった場合、または韓国人配偶者が韓国に住所を有する場合などは、韓国国際私法第2条の実質的関連性が認められやすい状況です。最終的には個別事情の総合判断となるため、初期段階で韓国弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

Q2. 韓国所在の財産が分割の主要対象になる場合、韓国の家庭法院で進めるべきですか?

大法院 2017므12552(2021年2月4日 宣告)の判断枠組みは、韓国所在財産が分割対象として争われる事案で韓国法院の国際裁判管轄を認める余地が大きいことを示しています。財産の保全・財産照会・判決後の処理を一貫して韓国法上の手続きで対応できるため、実務的利点が大きい場合が多くなります。

Q3. 韓国の家庭法院で離婚手続きを進める場合、日本語での対応は可能ですか?

家庭法院への提出書類はすべて韓国語で作成する必要がありますが、依頼を受けた韓国弁護士事務所が日本語での意思疎通体制を整えている場合、相談・経過報告・主張内容の確認は日本語で行うことが可能です。事務所選択時に対応言語の確認が重要となります。

Q4. F-6ビザの日本人妻が韓国で離婚すると、在留資格はどうなりますか?

離婚後すぐにF-6が当然に失効するわけではありませんが、婚姻関係の解消は重要な変更事由です。離婚理由(韓国人配偶者の責任の有無)、子の養育、収入・素行要件、滞在期間等によって、F-6の維持・他資格への変更・退去可否が判断されます。結果は出入国・外国人庁の個別審査によるため、早期に韓国弁護士と検討することが重要です。

※本記事は韓国法の一般的な情報提供を目的としたものであり、特定事件に対する法的助言ではありません。具体的な判断は個別の事実関係に基づき韓国弁護士にご相談ください。日本法上の判断については日本の弁護士にご確認ください。当事務所は韓国の家庭法院で進める日韓夫婦の国際離婚を中心とした家事事件を取り扱っております。

Pyoung-ho Kim 弁護士 (キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。
韓国弁護士協会 家族法専門弁護士登録。2021年 優秀弁護士賞受賞。
2015年以来、500件以上の事件を担当。