「韓国人の配偶者と離婚で合意できず、家庭法院での調停を考えている」——そうした状況でこのページにたどり着いた方も少なくないかもしれません。韓国では、夫婦が協議離婚で合意に至れない場合、いきなり裁判を起こすのではなく、まず家庭法院の「調停(조정)」を経るのが原則です。この記事では、韓国の離婚調停の手続きの流れ、調停調書の効力、そして日本に住む配偶者が知っておくべき注意点を、韓国弁護士の視点から整理します。国際離婚全般の進め方については国際離婚サービスページもあわせてご参照ください。
韓国の離婚調停とは — 「調停前置主義」という原則
韓国の離婚には、夫婦の合意による協議離婚、家庭法院の調停による離婚、そして裁判による離婚の三つの道があります。調停は、協議離婚で合意できないものの、できれば裁判まで進まずに解決したいという場合の中間的な手続きにあたります。
重要なのは、韓国では裁判離婚を申し立てる前に、まず調停を経なければならないという点です。これを「調停前置主義」といいます。家事訴訟法第50条は、裁判上の離婚を含む「ナ類(나류)家事訴訟事件」について、家庭法院に訴えを提起しようとする者は先に調停を申し立てなければならないと定めています。もっとも同条第2項の但書は、調停に回付しても成立の見込みがないと認められる場合などを例外として規定しており、実務上この例外が広く適用されているため、調停を経ずに訴えを提起した場合に必ずしも調停へ回付されるとは限りません。日本の家事事件手続法も離婚について調停前置主義を採用しており発想は共通しますが、調停で決まった内容の効力などには、後述するとおり実務上の違いがあります。
韓国の離婚調停の手続きの流れ
韓国の離婚調停の手続きは、おおむね次のような段階で進みます。
| 段階 | 内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| ① 調停の申立て | 家庭法院に調停申立書を提出。離婚に加え、財産分与・親権・養育費・慰謝料などの請求もあわせて記載できる | 即時 |
| ② 調停期日の指定 | 家庭法院が調停期日を指定し、双方に呼出状を送達する | 申立てから約1〜2か月 |
| ③ 調停期日 | 調停担当判事と調停委員が間に入り、双方の言い分を聞いて合意を模索する。複数回行われることもある | 事案により異なる |
| ④ 成立または不成立 | 合意に至れば調停調書を作成(成立)。合意できなければ不成立となり、事件は裁判に移行する | 事案により異なる |
調停期日には、原則として当事者本人の出席が求められます(家事訴訟法第7条「本人出席主義」)。もっとも実務上は、弁護士などの代理人による出席も広く認められており、本人が毎回出席しなければならないわけではありません。事情に応じて映像(ビデオ)による進行が利用されることもあります。
調停で合意される内容と「調停調書」の効力
韓国の離婚調停では、「離婚するかどうか」だけでなく、財産分与の割合と方法、未成年の子の親権者・養育者の指定、養育費、慰謝料、面会交流の方法など、離婚に伴うほぼすべての条件を一度に取り決めることができます。
ここで日本人配偶者がもっとも注意すべきなのが、調停調書の効力です。家事訴訟法第59条は、調停は当事者間で合意された事項を調書に記載することによって成立し、その調停(および確定した「調停に代わる決定」)は裁判上の和解と同一の効力を持つと定めています。裁判上の和解は確定判決と同じ効力を持ちますから、調停調書に記載された内容は、原則として後から「やはり納得できない」と言って取り消すことはできません。
これは、調停期日でその場の雰囲気に押されて安易に合意することの危険性を意味します。財産分与の割合をいったん調書に記載すれば、後で相手が韓国国内に別の財産を隠していたと分かっても、やり直しは容易ではありません。調停は「話し合い」でありながら、その結果は判決と同じ重みを持つ——この二面性が、韓国の離婚調停を理解するうえで欠かせないポイントです。逆にいえば、調停が成立すれば調停調書は確定判決と同一の効力を持ち、それをもって離婚が成立します。慰謝料の算定基準については韓国の離婚慰謝料に関する記事、養育費の決め方については韓国の養育費請求に関する記事もあわせてご確認ください。
調停に代わる決定(強制調停)と異議申立て
調停期日で双方が完全には合意できなくても、家庭法院が「この内容なら相当だ」と判断した場合、判事の職権で「調停に代わる決定」(韓国語で「조정을 갈음하는 결정」、いわゆる強制調停)を出すことがあります。家事訴訟法第49条により家事調停には民事調停法の規定が準用されるため、民事調停法上の「調停に代わる決定」が家事調停でも問題となります。
この決定に納得できない当事者は、告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます。期間内に異議を申し立てれば決定は効力を失い、事件は裁判に移行します。2週間以内に異議が出されなければ決定が確定し、調停が成立したのと同じ効力が生じます。日本に住む配偶者にとって、この「2週間」は特に注意が必要です。決定書は日本の住所に送達されますが、国際郵便の日数や、韓国語で書かれた書面の内容を正確に理解するまでの時間を考えると、期限はあっという間に迫ります。内容を誤解したまま期限を過ぎれば、不本意な条件がそのまま確定してしまうおそれがあります。
日本人配偶者が韓国の離婚調停で直面する注意点
韓国の離婚調停の手続きそのものは日本の調停と発想が似ていますが、日本人配偶者が実際に進めるとなると、日本国内の離婚にはない難しさが現れます。
言語の壁。調停期日でのやり取り、調停調書、各種の決定書はすべて韓国語で作成されます。調停の場では、その場で示された条件に「はい」「いいえ」を答えなければならない場面があり、ニュアンスを取り違えたまま合意すると、前述のとおり後から取り消すことは容易ではありません。
出席の負担。実務上は弁護士などの代理人による出席が広く認められているため、必ずしも毎回ご自身が韓国へ渡航する必要はありません。ただし本人の意思を直接確認すべき場面では、本人の出席や映像による参加が求められることがあります。
相手方の財産・所在の把握。配偶者が韓国国内にどのような財産を持っているか、別居後にどこに住んでいるかが分からなければ、財産分与について適切な合意をすることも、呼出状を相手に届けることも難しくなります。
韓国と日本の離婚調停・離婚制度の違い
制度の発想は似ていても、実際の運用には次のような違いがあります。
| 項目 | 韓国 | 日本 |
|---|---|---|
| 調停前置主義 | 採用(家事訴訟法第50条)。原則として調停が先行し、訴訟提起後も事案に応じて調停に回付され得るが、成立見込みがない場合などは例外がある | 採用(家事事件手続法)。発想は共通 |
| 調停調書の効力 | 裁判上の和解と同一の効力(家事訴訟法第59条)。確定判決と同じ重み | 調停調書も確定判決と同一の効力 |
| 強制調停 | 「調停に代わる決定」あり。2週間以内に異議がなければ確定 | 「調停に代わる審判」あり。2週間以内に異議申立て可 |
| 財産分与の傾向 | 専業主婦・主夫の家事貢献も評価対象となり、婚姻期間・財産形成経緯・個別事情によって寄与度が判断される。事案によっては4〜6割程度と評価される例もある | 2分の1ルールが基本的な出発点とされる |
| 手続きの言語 | 韓国語。調停調書・各種決定書もすべて韓国語 | 日本語 |
財産分与の考え方の違いは、調停での合意内容に直接影響します。日本の感覚で「2分の1で当然」と考えて合意するか、韓国の家庭法院の評価基準を踏まえて交渉するかで、結果が変わり得る点に注意が必要です。
調停が不成立になったら — 裁判離婚へ
調停で合意できず、「調停に代わる決定」にも異議が出された場合、事件は裁判離婚に移行します。裁判で離婚が認められるには、韓国民法第840条が定める離婚原因(配偶者の不貞行為、悪意の遺棄、配偶者やその直系尊属からの著しい不当な扱い、自分の直系尊属に対する配偶者の著しい不当な扱い、配偶者の生死不明、婚姻を継続し難い重大な事由)のいずれかが必要です。
実務上もっとも多く使われるのが、第6号の「婚姻を継続し難い重大な事由」です。韓国大法院 2021므15480(2022年5月26日)は、第6号の意味について、夫婦間の愛情と信頼を基盤とすべき婚姻の本質に相応する夫婦共同生活関係が回復不可能なほど破綻し、婚姻生活の継続を強制することが一方配偶者に耐え難い苦痛となる場合をいう、と判示しました。そのうえで、婚姻関係が回復不可能なほど破綻したと認められれば、破綻の原因についての原告の責任が被告より重いと認められない限り、離婚請求を認めるべきであるとしています。調停の段階での対応は、その後に裁判へ進んだ場合の見通しと切り離せません。だからこそ、調停を「とりあえずの話し合い」と軽く考えないことが重要です。
弁護士に相談すべき理由
韓国の離婚調停の手続きは、日本の調停と似ているようでいて、調停調書がただちに確定判決と同じ効力を持つこと、決定への異議申立てがわずか2週間であること、すべてが韓国語で進むことなど、日本人配偶者にとって見落としやすい落とし穴が複数あります。
協議離婚を先に試みるべきか、初めから調停を申し立てるべきか。調停で示された財産分与・親権・養育費の条件を受け入れてよいか、それとも不成立にして裁判で争うべきか。これらは「正解が一つ」の問題ではなく、ご家庭の財産状況、子どもの有無、相手方の所在、日本での生活設計によって答えが変わります。ご自身の状況がどこに当てはまるのか分からないと感じたら、まずはLINEで基本的な状況をお知らせいただければ、最初の一歩を一緒に整理することができます。
よくある質問(FAQ)
Q. 韓国では調停を経ずにいきなり離婚裁判を起こせますか?
韓国は調停前置主義(家事訴訟法第50条)を採用しているため、原則として調停を先に申し立てる必要があります。もっとも同条第2項の但書は、調停に回付しても成立の見込みがないと認められる場合などを例外として規定しており、実務上この例外が広く適用されているため、訴訟を提起した後に必ず調停へ回付されるとは限りません。
Q. 調停で合意した内容は後から取り消せますか?
調停調書は裁判上の和解と同一の効力を持ち(家事訴訟法第59条)、確定判決と同じ重みです。そのため、原則として後から取り消すことはできません。調停期日でその場の流れに押されて合意しないよう、事前の準備が重要です。
Q. 日本に住んでいても韓国の離婚調停に対応できますか?
対応は可能です。調停期日には原則として本人の出席が求められますが、実務上は弁護士などの代理人による出席も広く認められており、必ずしも毎回渡韓する必要はありません。呼出状や決定書は日本の住所に送達されます。
Q. 「調停に代わる決定」が届いたら何をすべきですか?
内容に納得できない場合は、告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てる必要があります。期間内に異議がなければ決定が確定し、調停と同じ効力が生じます。韓国語の書面の内容を早めに正確に把握することが大切です。
Q. 調停が不成立になるとどうなりますか?
調停が不成立になった場合、事件は裁判離婚に移行します。裁判で離婚が認められるには、韓国民法第840条が定める離婚原因のいずれかが必要で、実務上は第6号の「婚姻を継続し難い重大な事由」が多く用いられます。
※ 本記事は韓国法に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際の手続きにあたっては、具体的な事情に基づく弁護士への相談をおすすめします。
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