当事務所の実務でも、韓国 養育費 請求に関する相談が増えています。「韓国で離婚したが、養育費をどう請求すればよいか分からない」「日本の元配偶者に養育費を払わせたい」「過去に受け取れなかった養育費を今から請求できるか」といった内容です。在韓日本人、あるいは韓国人の元配偶者を持つ日本人の方にとって、韓国の養育費制度は日本とは異なる点が多く、思わぬ落とし穴にはまるケースも少なくありません。
この記事では、韓国での養育費請求を検討している日本人向けに、算定基準・手続き・時効の問題を最新の判例を踏まえて解説します。なお、養育費問題は離婚手続きと密接に関係します。韓国における国際離婚の基礎知識については国際離婚(日韓)の解説ページも合わせてご参照ください。
韓国の養育費制度の基本 — 日本との比較
韓国も日本も「養育費算定基準表」を用いて養育費の目安額を算出します。しかし制度の運用には大きな違いがあります。
| 比較項目 | 韓国 | 日本 |
|---|---|---|
| 算定基準 | 養育費算定基準表(2021年改訂)— 両親の月平均税引前収入・子の満年齢別に標準養育費を設定。裁判所が個別事情を踏まえ最終的に決定 | 養育費算定表(2019年改訂)— 双方の基礎収入を基に機械的に算出する傾向あり |
| 裁量の幅 | 裁判所の裁量が広く、個別事情を重視。表の金額から大幅に増減することも | 算定表が事実上の基準となっており、大幅な乖離は稀 |
| 親権・養育権 | 共同親権も認められる。養育権者と親権者を分けることが可能 | 2026年4月1日施行の改正民法により、離婚後に父母双方を親権者と定める選択肢が導入。ただし共同・単独いずれにするかは子の利益を中心に個別判断 |
| 過去の養育費請求 | 可能。子が成年に達した時点から消滅時効(10年)が起算される(大法院 2018스724) | 協議成立・審判確定後の分に限り請求可(事後的請求は制限的) |
| 不払い時の対応手段 | 直接支払命令・履行命令・監置・運転免許停止申請など複数の手段が存在。いずれも要件確認と所定の手続きが必要 | 履行勧告・強制執行(給与差押え等)があるが、国際事案では執行が困難な場合も |
韓国の養育費 — 算定基準表について
韓国の2021年養育費算定基準表は、両親の月平均の税引前収入(勤労所得・事業所得・賃貸収入・利子収入・年金等を含む)と子の満年齢を基準に、標準養育費を示しています。この標準養育費を基に、養育権者・非養育権者それぞれの収入割合で分担額を算出するのが基本的な考え方です。
参考として、両親の合算月平均収入が0〜199万ウォン区間の標準養育費(月額)は以下のとおりです。
| 両親合算月収(税引前) | 0〜2歳 | 3〜5歳 | 6〜8歳 | 9〜11歳 | 12〜14歳 | 15〜18歳 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0〜199万ウォン | 621,000 | 631,000 | 648,000 | 667,000 | 679,000 | 703,000 |
※ 単位:ウォン(月額)。上記は算定基準表の一部抜粋です。収入区分が上がるにつれ標準養育費も高くなります。また、教育費・医療費・課外活動費などの特別費用は別途加算されることがあります。正確な金額は最新の算定基準表原表および個別事情に基づき弁護士にご確認ください。
日本人が直面する特有の困難
①言語と書類の壁
養育費に関する申立書や証拠書類はすべて韓国語で準備が必要です。日本の戸籍・収入証明書なども翻訳・認証が求められ、一人で対応するには相当の手間がかかります。
②税引前収入の証明と換算
韓国の養育費算定は月平均の税引前収入を基準にします。日本で収入を得ている場合、確定申告書・給与明細・源泉徴収票等を韓国語に翻訳した上で、韓国家庭裁判所が理解できる形式で提出する必要があります。日韓で収入の計算方式が異なるため、正確な換算には専門家の関与が重要です。
③在留資格への影響
在留資格への影響は、ビザの種類・離婚の経緯・子の養育状況・韓国での生活基盤などにより異なります。養育費問題と離婚・在留資格問題が重なる場合には、家事手続と出入国実務を分けて確認する必要があります。
④日韓両国での手続きの二重性
韓国で養育費審判を得ても、相手方が日本に帰国・移転した場合は日本での強制執行手続きが別途必要になります。逆に日本での合意内容を韓国で変更申立する際も、両国の法手続きの知識が求められます。
⑤過去の養育費 — 時効の問題
離婚後長期間にわたり養育費を受け取れなかった場合、過去分の請求ができるかどうかが問題になります。これについては次のセクションで解説します。
過去の養育費請求と消滅時効 — 2024年の重要判決
「離婚から何年も経っているが、今から過去分の養育費を請求できるか?」という質問を当事務所でも多くいただきます。
この点については、2024年に韓国大法院(最高裁)が全員合議体決定で重要な判断を下しました。
韓国大法院 2018스724(2024年7月18日 全員合議体決定)は、「過去の養育費請求権の消滅時効は、子が未成年である間は進行せず、子が成年に達して養育義務が終了した時点から起算する」と判示しました。日本民法とは異なる権利保護のアプローチです。
つまり、子が成年(韓国では満19歳)になった時点から10年以内であれば、過去の養育費をさかのぼって請求できる可能性があります。ただし、この権利行使には要件確認・証拠収集・相手方財産の把握など、複数の準備が必要です。
韓国での養育費請求 — 手続きの流れ
韓国における養育費請求の主な手段を整理します。なお、家事調停と家事審判はいずれか一方を選択して申立てることができ、必ずしも調停を経てから審判を申立てる必要はありません。
① 当事者間の協議
まず当事者間で養育費の額・支払方法について協議します。合意が成立した場合でも、法的な執行力を確保するためには、調停手続を通じた調停調書の作成など、専門家を交えた適切な対応が重要です。
② 家事調停の申立(選択肢の一つ)
家庭裁判所への調停申立が可能です。調停が成立すれば、調停調書が作成され確定判決と同様の効力を持ちます。不成立の場合は審判手続きに移行します。
③ 家事審判の申立(選択肢の一つ)
調停を経ることなく直接、養育費の額と支払方法を定める審判を申立てることもできます。裁判所が双方の事情を考慮して養育費を決定します。
④ 確定後の不払いへの対応
調停調書・審判等によって養育費の支払義務が確定しているにもかかわらず、正当な理由なく履行されない場合には、事情に応じて履行命令・直接支払命令(勤務先への直接支払い義務付け)・強制執行などの後続手段を検討することになります。なお、監置(身柄拘束)・運転免許停止要請・出国禁止申請なども制度上は存在しますが、いずれも自動的に行われるものではなく、裁判所または関係機関への手続きと要件の確認が必要です。
在韓日本人の方や、韓国に元配偶者がいる日本人の方にとって、これらの手続きは単なる法律問題ではありません。言語の壁・書類の翻訳・日韓双方の裁判所との調整・在留資格への影響まで含め、複合的に対処しなければならない問題です。
親権・養育権問題全体については、韓国の親権・養育権について詳しく解説したページもご参照ください。
なぜ弁護士への相談が必要か
養育費の問題は「金額を決める」だけでは終わりません。特に日韓にまたがるケースでは、収入の算定方式・書類の準備・両国での手続きの連携・時効の起算点の確認など、一つの見落としが権利を失う結果につながることがあります。当事務所ではLINEでのご相談も受け付けています。
Pyoung-ho Kim 弁護士(キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。
韓国弁護士協会 家族法専門弁護士登録。2021年 優秀弁護士賞受賞。
2015年以来、500件以上の事件を担当。