韓国に不動産や預金を残して家族が亡くなった場合、日本国内の手続きだけで相続を完結させることはできません。韓国にある財産の名義移転や払い戻しは韓国側の制度に従って進める必要があり、しかも相続放棄や相続税申告には明確な期限があります。本稿では、日本に住む相続人が韓国の不動産・預金の相続手続きを進める際に知っておくべき法的な枠組みと、見落としやすい注意点を韓国弁護士の立場から整理します。

どの国の法律が適用されるのか — 準拠法と「韓国側手続き」の関係

最初に確認すべきは準拠法です。韓国の国際私法第77条は「相続は死亡当時の被相続人の本国法による」と定めており、日本の「法の適用に関する通則法」第36条も同じ趣旨です。つまり、亡くなった方が韓国籍であれば、誰が相続人になり相続分がどうなるかは韓国民法によって決まり、日本国籍であれば日本民法によって決まります。韓国法と日本法の相続制度の違い(相続順位・配偶者の相続分・遺留分など)については、日韓相続の解説記事で詳しく扱っています。

ここで重要なのは、準拠法がどちらの国の法律であっても、韓国にある不動産の登記移転や銀行預金の取り扱いは、韓国の登記制度・金融実務に従って韓国側で進めなければならないという点です。相続関係は韓国の家族関係登録制度に基づく書類などで証明する必要があり、日本の戸籍謄本だけでは足りない場面が多くあります。被相続人の国籍や登録状況によって必要な書類は大きく変わります。日韓相続の全体像は日韓相続のご案内ページをご覧ください。

見落とすと取り返しがつかない二つの期限

韓国民法第1019条により、相続人は相続開始があったことを知った日から3か月以内に、相続放棄または限定承認をすることができます。被相続人に債務がある可能性がある場合、この期間を過ぎると原則として債務も含めて相続することになるため、財産の調査と判断をこの短い期間内に終えなければなりません。

税金については、現行の相続税及び贈与税法第67条により、相続税の申告は相続開始日が属する月の末日から6か月以内が原則ですが、被相続人または相続人が外国に住所を置く場合は9か月となります。また同法第3条により、被相続人が韓国の非居住者であった場合は、韓国国内にある相続財産が韓国相続税の課税対象となります。

手続き 期限 留意点
相続放棄・限定承認 相続開始を知った日から3か月(韓国民法第1019条) 期限経過後は原則、債務を含めて相続
韓国の相続税申告 相続開始日が属する月の末日から6か月。被相続人・相続人が外国に住所を置く場合は9か月(相続税及び贈与税法第67条) 日本の相続税申告(10か月)とは別に進行

韓国にある財産が日本の相続税の課税対象にもなる場合、二重課税の調整(外国税額控除)が問題になり得ますが、その適用の可否や範囲は相続人の居住状況など個別の事案によって異なります。両国の申告を視野に入れた検討が必要です。

遺産分割協議は「相続人全員」でなければ無効 — 大法院の判断

韓国民法第1013条により、共同相続人は協議によって相続財産を分割することができます。この協議について、大法院2001年6月29日宣告2001다28299判決は、協議による相続財産の分割は共同相続人全員の同意があってはじめて有効であり、一部の相続人の同意を欠く場合や、その意思表示に代理権の欠缺がある場合には分割は無効であると判示しています。

この判断は、日本に住む相続人にとって二つの意味を持ちます。第一に、韓国にいる親族だけで進めた遺産分割協議や、それに基づく登記は、日本にいるあなたの同意を欠いていれば効力に問題が生じ得るということです。第二に、逆にあなたが手続きに参加しなければ、相続手続き全体が前に進まず、不動産が長期間共有状態のまま残されるということです。どちらの立場であっても、時間が経つほど相続人の世代交代などで関係者が増え、解決はさらに難しくなっていきます。

日本から進める場合の現実的な壁

日本に住んだまま韓国の相続手続きを進める場合、まず書類の問題が壁になります。韓国側の手続きでは韓国の証明書類で相続関係を証明する必要がありますが、日本居住の相続人には韓国の印鑑証明に相当する書類がないなど、日本側で準備すべき代替書類が事案ごとに異なります。どの書類がどの場面で必要になるかは、被相続人の国籍・登録状況、財産の種類、相続人の構成によって変わるため、画一的な準備では対応しきれません。

さらに、登記・金融機関・税務とのやり取りはすべて韓国語で行われ、3か月・9か月という期限はこうした準備と並行して進行します。書類の不備で手続きが止まるたびに、期限だけが近づいていくのが実務の現実です。対応が遅れるほど選択肢は狭まり、早い段階での検討が結果に大きく影響します。

韓国国内の不動産・預金の相続を日本語で対応できる法律事務所は、韓国でも多くありません。当事務所はソウル・瑞草の法院(裁判所)の目の前に位置し、相続・財産をめぐる手続きと紛争の双方を扱ってきました。日本にお住まいの方のご依頼では、来韓いただかずに進められる方法を事案ごとに検討しています。

この記事のポイント

・韓国にある不動産・預金は、準拠法がどちらの国の法律でも、名義移転・払い戻しは韓国側での手続きが不可欠

・相続放棄は3か月、韓国の相続税申告は外国居住の場合9か月 — 二つの期限が同時に進行する

・遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ無効 — 日本にいる相続人を除外して進めることはできない

・書類・言語・期限の三重の壁があるため、早い段階で弁護士に相談することで選択肢が広がる

よくあるご質問

日本に住んだまま、韓国に行かずに相続手続きを進められますか?

多くの場合、来韓せずに進める方法はあります。ただし、必要な書類や進め方は被相続人の国籍・財産の種類・相続人の構成によって大きく異なり、韓国の機関とのやり取りはすべて韓国語で行われます。韓国の弁護士に早い段階で相談することで、選択肢が広がります。

韓国の相続手続きの期限はいつまでですか?

相続放棄・限定承認は相続開始を知った日から3か月以内(韓国民法第1019条)、韓国の相続税申告は相続開始日が属する月の末日から6か月以内で、被相続人または相続人が外国に住所を置く場合は9か月です(相続税及び贈与税法第67条)。日本の相続税の申告期限(10か月)とは別に進行します。

韓国の不動産を相続したら、税金は韓国と日本の両方にかかりますか?

韓国にある財産は韓国の相続税の課税対象となり、相続人の状況によっては日本の相続税の課税対象にもなり得ます。二重課税の調整(外国税額控除)が適用されるかどうかや、その範囲は個別の事案によって異なるため、両国の申告を視野に入れた検討が必要です。

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Pyoung-ho Kim 弁護士(金平浩・キム・ピョンホ)

韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。ソウル家庭法院選任の成年後見人として後見業務を遂行。2021年 大韓弁護士協会 優秀弁護士賞受賞。

2014年以来、民事・刑事・家事など全分野で累計500件以上の事件を担当。

ヨヘ(如海)法律事務所 — ソウル特別市瑞草区法院路16、406号(瑞草洞、正谷ビル)

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な事案については弁護士にご相談ください。