本記事は、実際の大法院(最高裁にあたる)決定の事案をもとに、登場人物や細部の事情を脚色して再構成した事例です。

四十九日の法要が終わった日、きょうだいが父の残した財産を整理するために集まりました。正確には、次男と末っ子、そして数年前に先に世を去った長男の二人の子(孫)でした。長男の子が父の相続分を代襲して受け継ぐこと——ここまでは全員が理解していました。問題はその先にありました。家族の何人かは日本で暮らし、相続財産の中心は韓国・ソウルにある一棟の不動産でした。

「あなたたちは、おじいさんがかけてくれた保険金をもう受け取ったでしょう。あれも前もって受け取った相続分なのだから、今回の分割では差し引いて計算すべきよ。」

祖父は生前、長男を被保険者とする生命保険に入って保険料を払い続け、保険金を受け取る人として孫たちを指定していました。長男が先に亡くなったことで、孫たちはその保険金を受け取りました。次男と末っ子の目には、その金は「祖父の財産から先に出ていった分」と映り、孫たちの目には「父を失った自分たちに祖父が残してくれた慰め」と映りました。話し合いはその場で壊れ、事件はソウル家庭法院の相続財産分割の審判へと進みました。

協議が壊れる地点 — 「先にもらった分」をめぐる争い

韓国法では、相続財産分割の協議は共同相続人の全員が合意して初めて効力を持ちます。一人でも同意しなければ協議そのものが成立せず、このとき各相続人は家庭法院に相続財産分割の審判を請求できます(韓国民法第1013条第2項。現行・施行2026年3月17日)。日本に住む相続人がいても、連絡が取れない相続人がいても、結論は変わりません。むしろ、こうした事情そのものが審判を検討する理由になります。

審判で、法院は単純に法定相続分のとおりに分けるわけではありません。相続人の中に被相続人から生前贈与や遺贈を受けた人(特別受益。民法第1008条)がいるか、被相続人の財産の維持・増加に特別に寄与した人(寄与分。民法第1008条の2)がいるかを反映して、具体的相続分を定めます。先の家族の争いは、まさにこの地点から始まりました。保険金が特別受益にあたるなら孫たちの取り分はその分だけ減り、あたらないなら法定相続分どおりに受け取ることになるからです。

法院の答え — 代襲相続人が先に受け取った保険金

この事案で大法院は、少なくとも上記の保険金を代襲相続人の特別受益とは見られない、と判断しました(大法院2024年6月13日付2024ス525、526決定)。要旨は二つです。

第一に、代襲相続人が代襲原因の発生前に被相続人から受けた贈与などの利益については、少なくとも本件のように相続人の地位で受けた相続分の前渡しとは評価できない場合、特別受益とは見られないと判断しました。

第二に、被相続人が保険契約者として保険料を払い、孫を保険金受取人に指定した生命保険金については、贈与があった時点は保険金を受け取ったときではなく、保険金受取人に指定したときだと判断しました。その指定の時点が代襲原因の発生前であったため、この保険金は特別受益とは見られない、という結論です。

次男と末っ子の立場からすれば、納得しがたいかもしれません。けれども、同じお金であっても「いつ、どの地位で、どんな形で」受け取ったかによって特別受益かどうかが変わる——これがこの決定の示す核心です。

この決定が意味すること — 分割審判は計算ではなく判断の争い

相続財産分割の審判で結果を左右するのは、不動産の時価や預金の残高そのものではありません。どの生前の移転が特別受益と認められるのか、誰の寄与が寄与分として評価されるのか、そして何が分割の対象財産に含まれるのか——という法的評価です。上の決定のように、保険金一つをめぐっても贈与の時点をどう見るかで結論は正反対になり、同じ種類の財産でも事実関係が少し違えば結果が変わり得ます。

主張する側であれ、防御する側であれ、事情は同じです。他の相続人の特別受益を主張しようとする側は何を手がかりに何を示すかを、特別受益を主張される側はその移転が自分の相続分とは無関係だと示せるかを、事案に合わせて組み立てる必要があります。どの要素がどれだけの重みを持つかは事実関係ごとに異なり、一律には言えません。

区分 協議分割 相続財産分割審判
成立の要件 共同相続人 全員の合意 協議が成立しない時、家庭法院に請求
分配の基準 相続人が自由に定める 特別受益・寄与分を反映した具体的相続分
結果の予測可能性 合意した内容のとおり 法的評価により法定相続分と異なり得る
時間・費用 合意できれば比較的短期 審理に相応の時間と費用がかかる

国境をまたぐと、難しさはもう一段増えます

相続人が日本に、財産が韓国にある——日韓家族や在日の相続では、この構図がそのまま争いの背景になります。まず、どの国の法が適用されるかが問題になりますが、韓国の国際私法は相続を被相続人の本国法によるとしています(国際私法第77条)。被相続人が韓国国籍であれば、相続の準拠法は原則として韓国法になります(国際私法第77条)。さらに、韓国に不動産など主要な相続財産がある場合や韓国の家族関係登録・相続手続が問題となる場合には、韓国の家庭法院で相続財産分割審判を進めることが実務上重要になります。

そのうえで、日本に住む相続人にとっては、韓国の家族関係登録に関する書類の取り寄せ、言語、現地の手続への対応といった負担が重なります。審判が続く間にも、相続財産である不動産の管理、賃料収入の帰属、税の負担といった現実的な問題が積み上がっていきます。感情が高ぶってから資料を集め始めると、資料の確保や不動産管理、他の相続人との交渉で不利になることがあります。対応が遅れるほど権利が当然に失われるという意味ではありませんが、早めに争点を整理しておくことが重要です。

ポイントの整理

  • 相続財産分割の協議は共同相続人 全員の合意が必要で、一人でも反対すれば家庭法院に相続財産分割の審判を請求することになります(民法第1013条第2項)。
  • 審判では法定相続分ではなく、特別受益(民法第1008条)・寄与分(民法第1008条の2)を反映した具体的相続分が基準になります。
  • 大法院は、代襲相続人が代襲原因の発生前に被相続人から受けた生命保険金は特別受益にあたらないと判断しました——同じお金でも受け取った時点と地位で評価が変わります。
  • 被相続人が韓国国籍なら相続は原則として韓国法により、審判は韓国の家庭法院で進みます(国際私法第77条)。在日・日韓の相続では書類・言語・時間の負担がさらに重なります。

よくあるご質問

相続人の一部だけで遺産分割協議をしても有効ですか?

いいえ。相続財産分割の協議は共同相続人 全員の合意が必要で、一部だけで行った協議は効力が認められません。連絡が取れない相続人や、日本など海外に住む相続人がいる場合も同じで、こうした事情そのものが審判を検討する理由になります。

日本に住んでいても、韓国の相続財産分割審判の当事者になりますか?

はい。被相続人が韓国国籍であれば、相続は原則として韓国法により判断され、審判は韓国の家庭法院で進みます(国際私法第77条)。日本にお住まいでも当事者として関わることになり、韓国の書類の準備や現地手続への対応が必要になります。具体的にどの法が適用され、どの裁判所が扱うかは事案により異なるため、個別の確認が要ります。

生前にもらったお金は、すべて相続分から差し引かれますか?

いいえ。生前に受けた利益がすべて特別受益になるわけではなく、受け取った時点・地位・形によって評価が変わります。上で紹介した決定のように、代襲相続人が代襲原因の発生前に受け取った生命保険金は特別受益と認められませんでした。反対に特別受益と認められる類型もさまざまですので、事案ごとの検討が必要です。

相続財産分割の審判で、弁護士の関与が重要なのはなぜですか?

分割審判は、家族間の感情が高ぶった状態で、特別受益・寄与分・分割対象という三つの法的評価が同時に争われる手続です。どの主張を立て、何でそれを裏づけるかの組み立てが結果に直結し、初期の対応を誤ると、後から最も有利な主張すら活かしにくくなることがあります。

協議が壊れた、あるいは壊れそうなら

相続をめぐる争いでは、請求する側と防御する側とで事情がまったく異なります。当事務所はソウル・瑞草の法院(裁判所)の目の前にあり、相続をめぐる紛争事件を扱っています。同じ争点をどちらの立場からも見てきた経験は、争いが本格化する前に事案を組み立てる段階で違いを生みます。

家族の誰かから「先にもらった分があるはず」という言葉が出始めたら、まずその評価が正しいのかを確かめる必要があります。受け取った時点・地位・形によって結論が変わるだけに、ご自身の状況で何が争点になるのか、まずは事案の概要をLINEで日本語でお送りいただければ確認できます。

協議が壊れる前でも、壊れた後でも。在日・日韓の相続でお困りの点を、LINEで日本語でご相談ください。

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相続人が協力できる場合の手続については韓国にある不動産・預金の相続手続きを、相続分が侵害された相続人の権利については韓国の遺留分の解説を、相続全般の案内は日韓相続のご案内ページをご覧ください。


Pyoung-ho Kim 弁護士(金平浩・キム・ピョンホ)

韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。ソウル家庭法院選任の成年後見人として後見業務を遂行。2021年 大韓弁護士協会 優秀弁護士賞受賞。

2014年以来、民事・刑事・家事など全分野で累計500件以上の事件を担当。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。結論は事実関係により異なり得ます。具体的な事案については弁護士にご相談ください。