ソウルで暮らす日本人の方が、交差点で——本人は信号に従ったつもりで——右折した直後、横断歩道を渡っていた歩行者に接触し、相手が軽いけがを負いました。加入していた自動車保険がすべて補償してくれるはずで、相手とも治療費で話がついた。それで終わったと思っていた数週間後、警察から出頭要請が届きます。罪名は「業務上過失致傷」、そして「信号違反」。(これは韓国大法院が実際に判断した事案をもとに、特定の依頼者とは関係なく再構成したものです。)
韓国で人身事故——人がけがや死亡をする事故——を起こしたとき、多くの外国人ドライバーが抱く「保険に入っているから大丈夫」という感覚は、半分は正しく、半分は危険です。どこで線が引かれるのかを、順を追って見ていきます。
韓国では、人身事故は「まず刑事事件」から始まる
韓国では、運転中の過失で人にけがや死亡の結果を生じさせると、それ自体が刑事上の犯罪になります。根拠は刑法268条(業務上過失・重過失致死傷)で、5年以下の禁錮または2,000万ウォン以下の罰金と定められています。交通事故処理特例法3条1項も、車の運転者が交通事故でこの罪を犯した場合を同じ法定刑で規律しています。
物が壊れただけの物損事故は、この刑事責任の対象ではありません(別途、道路交通法上の問題は残り得ます)。しかし人身事故は、民事の賠償とは別に、はじめから刑事事件として動き出す——ここが、日本から来た運転者が見落としがちな出発点です。
原則:総合保険+「反意思不罰」で不起訴になり得る
もっとも、韓国の制度はすべての人身事故を法廷に送るわけではありません。二つの仕組みが、多くの事案を早い段階で収めます。
一つは反意思不罰です。交通事故処理特例法3条2項は、業務上過失致傷罪・重過失致傷罪について、被害者が明示的に処罰を望まない意思を示した場合、その意思に反して公訴を提起できないとしています。もう一つは総合保険(共済)の特例です。同法4条1項は、対人賠償を含む総合保険や共済に加入している車の運転者については、原則として公訴を提起できない(公訴権なし)としています。
| 仕組み | 根拠 | 効果 |
|---|---|---|
| 反意思不罰 | 交通事故処理特例法3条2項 | 被害者が処罰を望まない意思を明示すれば、その意思に反して起訴できない |
| 総合保険の特例 | 交通事故処理特例法4条1項 | 対人賠償を含む総合保険・共済に加入していれば、原則として公訴を提起できない |
つまり、けがが比較的軽く、きちんとした保険に入っていて、相手との関係も落ち着いている——そうした典型的な事故の多くは、起訴に至らずに収まり得ます。「保険に入っているから大丈夫」という感覚が半分正しいのは、この意味においてです。
しかし「保険に入っていれば大丈夫」が通じない場合
問題は、その特例に例外が用意されていることです。次のいずれかにあたると、総合保険への加入や被害者との示談があっても、特例は外れ、刑事事件として進みます。
| 特例が外れる場合 | 根拠 |
|---|---|
| 「12大例外」にあたる過失で事故を起こした | 交通事故処理特例法3条2項ただし書 |
| ひき逃げ(救護措置をとらず現場を離れた)・飲酒測定拒否 | 同法3条2項ただし書/特定犯罪加重処罰法5条の3 |
| 被害者が死亡、または生命の危険・不具・不治・難治の重傷害 | 同法4条1項2号 |
| 無保険、または保険が無効・解除・免責にあたる | 同法4条1項3号 |
とりわけ実務で重いのが、最初の「12大例外」です。これは、単なる不注意ではなく、法が特に危険とみなす類型の違反を伴って人身事故を起こした場合を指します。
| 「12大例外」(交通事故処理特例法3条2項ただし書) |
|---|
| ① 信号違反・通行禁止/一時停止などの指示違反 |
| ② 中央線侵犯、または横断・Uターン・後退の違反 |
| ③ 制限速度を時速20キロ超過 |
| ④ 追越しの方法・禁止時期・禁止場所、割込み禁止の違反 |
| ⑤ 踏切通過方法の違反 |
| ⑥ 横断歩道での歩行者保護義務の違反 |
| ⑦ 無免許(国際運転免許証の不所持を含む) |
| ⑧ 飲酒・薬物の影響下での運転 |
| ⑨ 歩道侵犯・歩道横断方法の違反 |
| ⑩ 乗客の転落防止義務の違反 |
| ⑪ スクールゾーン(児童保護区域)での児童の傷害 |
| ⑫ 積載物の落下防止措置の違反 |
具体的な違反が上記のどれにあたるかは、事実関係と条文の解釈に左右されます。個別の判断は専門家にご確認ください。
判例に見る「軽く見えても起訴される」
この12大例外がどれほど身近に働くかを示す、比較的最近の判断があります。大法院2025年7月16日宣告2024도16742判決(交通事故処理特例法違反〔致傷〕)は、次のような事案を扱いました。(判決の趣旨を一般的に紹介するものであり、特定の依頼者の事件ではありません。)
交差点とその直前の横断歩道が接して設けられ、車両用の信号機は交差点にだけ置かれていました。その車両用信号が赤、横断歩道の歩行者用信号が青の状態で、運転者は横断歩道の手前で止まらずにそのまま通過して右折し、その過程で歩行者にけがをさせました。大法院は、交差点にだけ置かれた車両用信号は、その手前の横断歩道の通行についても車両に対する指示を含むと解し、この運転を交通事故処理特例法3条2項ただし書1号の信号違反にあたると判断しました。さらに、信号違反が事故の直接の原因である以上、実際の衝突地点が横断歩道を外れた場所であっても、信号違反による業務上過失致傷罪が成立するとしました。
ここから見えてくるのは、「赤信号で交差点に進入したつもりはない」「横断歩道の上ではぶつかっていない」といった、運転者にとっては軽く感じられる事情が、必ずしも免責につながらないということです。信号違反という12大例外に一度あたると判断されれば、保険加入も示談も、起訴を止める盾にはなりません。
外国人ドライバーに特有のリスク
同じ事故でも、外国人には別の層のリスクが重なります。
運転資格そのものが問題になり得ます。韓国で有効に運転できる資格があったか——たとえば国際運転免許証の種類・有効期間、入国からの経過期間、外国免許の扱い——に疑義があると、12大例外の⑦「無免許(国際運転免許証の不所持を含む)」に触れ、軽い人身事故でも特例が外れることがあります。運転資格の詳細は、韓国での外国人の交通刑事事件のページもあわせてご覧ください。
レンタカーの保険内容にも注意が要ります。特例が働くのは対人賠償を含む総合保険(共済)に加入している場合であり、補償の範囲や免責の条件によっては、期待した保護が及ばないことがあります。
「ひき逃げ」の誤解も、外国人に起きやすい落とし穴です。相手のけがが軽そうに見えたため、その場で相手と番号を交換して立ち去った——このような対応が、救護措置や届出を欠いたと評価されると「逃走」にあたり得ます。逃走とされると、特定犯罪加重処罰法5条の3により、負傷の場合で1年以上の有期懲役または500万〜3,000万ウォンの罰金、死亡の場合には無期または5年以上の懲役という、はるかに重い処罰の対象になります。飲酒運転(韓国の飲酒運転)が絡めば、事態はさらに重くなります。
スクールゾーンは特に厳格です。児童保護区域で注意義務に違反して13歳未満の児童にけがや死亡の結果を生じさせると、いわゆる「民植法」(特定犯罪加重処罰法5条の13)により、傷害でも1年以上15年以下の懲役または500万〜3,000万ウォンの罰金と、通常よりも重く扱われます。
そして在留資格です。交通事故による有罪や処分は刑事上の記録として残り、韓国の出入国当局は、ビザの延長・変更や在留の継続を審査する際にこれを考慮する裁量を持っています。これは自動的なものではなく、結果は宣告された刑・ビザの種類・個別事情によりますが、刑事事件とは別に評価される現実の考慮事項です。駐在員・留学生・長期滞在の方にとっては、罰金で終わらない場合があるということです。
示談は「金額」だけの問題ではない
人身事故では、被害者との示談(合意)が事件の道筋を大きく左右します。反意思不罰が働く類型では被害者の意思が起訴の可否に直結し、12大例外にあたる場合でも、示談の有無や内容は、起訴するかどうかの判断や量刑に影響し得ます。
もっとも、示談がどの段階で・どのような形をとれば法的に意味を持つのか、供託がどう位置づけられるのかは、外から見えにくい技術的な問題です。急いで結んだ示談が、意図した効果を生まないこともあります。「保険会社が対応してくれるから自分は何もしなくてよい」と考えているうちに、刑事手続だけが別に進んでいた——という行き違いも起こり得ます。ここは、自己流で切り抜ける場面ではなく、刑事の見通しを踏まえて進めるべきところです。関連する韓国の刑事手続の全体像は、韓国の刑事事件(外国人向け)のページで確認できます。
どこで結果が決まるのか
韓国の人身事故は、「保険に入っていたかどうか」だけで決まるわけではありません。どの過失が働いたのか、それが12大例外にあたるのか、けがはどの程度か、救護と届出は尽くされたか、被害者は今どう望んでいるか——それぞれの答えが、不起訴と起訴という異なる方向へ事件を引っ張ります。しかもこれらの判断は、韓国語で行われ記録に残される早い段階で形づくられていきます。事故の直後に「軽い事故だった」と感じたことと、法がその事故をどう評価するかは、必ずしも一致しません。方向は、最初の説明がなされる前に見立てておくほうが、後から立て直すよりもはるかに容易です。
韓国で交通事故を起こしてしまった方、警察から出頭を求められた方へ——
保険会社の対応とは別に、刑事の見通しを早い段階で立てておくことができます。日本語でご相談いただけます。
よくあるご質問
韓国で人身事故を起こしても、任意保険(総合保険)に入っていれば起訴されませんか?
多くの場合はそうですが、常にではありません。韓国の交通事故処理特例法は、対人賠償を含む総合保険(共済)に加入していれば、業務上過失致傷などについて原則として公訴を提起できない(起訴されない)としています。しかしこれには重要な例外があり、①同法が定める「12大例外」にあたる過失で事故を起こした場合、②ひき逃げ(救護措置をとらずに現場を離れた場合)、③被害者が死亡または重傷害を負った場合、④無保険や保険免責にあたる場合には、この特例は働かず、示談や保険加入と関係なく刑事処罰の対象になります。ご自身の事故がどれにあたるかの判断は、しばしば微妙です。
「12大例外」とは何ですか。軽い接触事故でも起訴されることがありますか。
交通事故処理特例法3条2項ただし書が定める、反意思不罰・保険特例が働かない類型です。信号違反、中央線侵犯、制限速度を時速20キロ超過、追越し方法違反、踏切通過方法違反、横断歩道での歩行者保護義務違反、無免許(国際運転免許証の不所持を含む)、飲酒・薬物、歩道侵犯、乗客転落防止義務違反、スクールゾーンでの児童の傷害、積載物落下防止義務違反の12類型です。これらにあたる過失があると、被害者と示談していても、総合保険に入っていても、けがが軽くても起訴され得ます。実際に韓国大法院は、信号が赤の交差点で横断歩道を通過して右折し歩行者にけがをさせた事案を信号違反にあたるとしています。
相手のけがが軽そうだったので、その場を離れて後から連絡しました。これはひき逃げになりますか。
なり得ます。韓国では、人身事故を起こした運転者は、けがの程度が軽く見えても、まず負傷者を救護し必要な措置をとる義務を負います。これを果たさずに現場を離れると、後から連絡したとしても「逃走(ひき逃げ)」と評価されることがあり、その場合は交通事故処理特例法の特例が外れるだけでなく、特定犯罪加重処罰等に関する法律により大幅に重く処罰され得ます。何が「救護措置」にあたり、どこからが「逃走」にあたるかは事実関係に強く左右されるため、自己判断は危険です。
交通事故の刑事処罰は、ビザ・在留資格に影響しますか。
影響し得ます。韓国の出入国当局は、ビザの延長・変更や在留の継続を審査する際に、犯罪事実を考慮する裁量を持っています。有罪や処分が直ちに在留資格の喪失につながるわけではなく、結果は宣告された刑・ビザの種類・個別の事情によって異なります。ただし在留に関する判断は刑事事件そのものとは別に評価されるため、駐在員・留学生・長期滞在の方は、事件が終わってからではなく初めから在留への影響を視野に入れておくことが大切です。
金平浩弁護士(キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。2021年 大韓弁護士協会 優秀弁護士賞受賞。
2014年以来、民事・刑事・家事など全分野で累計500件以上の事件を担当。
本記事は一般的な法律情報であり、個別事案についての法的助言ではありません。具体的な事案については弁護士にご相談ください。
여해법률사무소(ヨヘ法律事務所)— 韓国における外国人のための法律相談。