この記事の要点

韓国に暮らす親、あるいは韓国に不動産や預金を残したまま判断能力が低下した親について、子が「家族だから」という理由でその財産を動かすことはできません。韓国では家庭裁判所が後見人を選び、その権限を監督する「成年後見」の審判が必要です(民法第9条)。

被後見人となる方が韓国に常居所を持つ場合、韓国国籍である場合、または韓国に財産があって保護の必要がある場合、韓国の裁判所に国際裁判管轄が認められます(国際私法第61条第1項)。日本に住むご家族が日本から手続を始めることも想定されています。

本稿は現行の韓国法の枠組みを一般的に説明するものであり、個別事案の助言ではありません。

連絡は、たいてい韓国の親族から入ります。父の物忘れが「年相応」では済まない段階に入っていた、入院費の請求は届くのに口座には触れられない、ソウルのマンションの賃借人が退去を申し出て保証金の返還期限が迫っている——。東京や大阪から見ていると、通帳と印鑑を預かっている親族の一人が、いつのまにか親のお金への唯一の窓口になっていた、という状況も珍しくありません。

ここで多くのご家族が直面するのが、日韓に共通する原則です。生きている成人の財産について、配偶者や長男であることそれ自体は何の法的権限も生みません。韓国の銀行は家族の合意を理由に払戻しに応じませんし、登記所は親族の署名で不動産を移転しません。韓国法が用意しているのは、家庭裁判所が後見人を選任し、その後見人を裁判所が監督し続けるという仕組みです。

韓国の成年後見は「裁判所が決める」制度

韓国民法第9条第1項は、疾病・障害・老齢その他の事由による精神的制約で事務を処理する能力が持続的に欠けている方について、家庭裁判所が成年後見開始の審判をすると定めています。請求できるのは本人、配偶者、4親等以内の親族(子・孫・兄弟姉妹・甥姪などが含まれます)、検事、地方自治団体の長などです。海外に住んでいることを理由にこの一覧から外れることはありません。裁判所は審判にあたり本人の意思を考慮しなければならない、とも定められています(同条第2項)。

成年後見が開始されると、被成年後見人の法律行為は原則として取り消すことができます(民法第10条第1項)。ただし裁判所が取り消せない行為の範囲を定めることができ、また日用品の購入など日常生活に必要で対価が過度でない行為は取消しの対象外です(同条第2項・第4項)。「すべてを奪う制度」ではない、という設計がここに表れています。

日本の制度をそのまま当てはめられない

日本の成年後見制度に馴染みのある方ほど、韓国の類型を日本の後見・保佐・補助に一対一で対応させたくなります。しかし対応関係は完全ではありません。とくに韓国の「特定後見」は、期間または事務の範囲を限って行う支援であり(民法第14条の2第3項)、たとえば「韓国にある一件の不動産の処分に限って」といった限定的な利用が想定されています。しかも特定後見は本人の意思に反してすることができません(同条第2項)。

韓国の類型要件(民法)特徴
成年後見精神的制約により事務処理能力が持続的に欠如(第9条第1項)本人の法律行為は原則取消可能。ただし裁判所が取消不可の範囲を定めうる(第10条)
限定後見事務処理能力が不足(第12条第1項)開始にあたり本人の意思を考慮する点は成年後見と同じ(第12条第2項)
特定後見一時的な援助または特定の事務に関する援助が必要(第14条の2第1項)本人の意思に反してはできない。期間または事務の範囲を定める(同条第2項・第3項)
後見契約(任意後見)判断能力が十分なうちに公正証書で締結(第959条の14第1項・第2項)家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じる(同条第3項)

どの類型を選ぶかは、申立てをした家族の希望で決まるわけではありません。大法院は、成年後見・限定後見の審判手続が家事非訟事件であることを前提に、限定後見の開始を求めた事件で成年後見を開始することも、成年後見を求めた事件で限定後見を開始することも、必要であれば可能であると判断しています(大法院2021年6月10日付2020ス596決定)。裁判所は請求の趣旨と原因、本人の意思、各制度の目的を考慮して、どちらの保護が適切かを自ら決めるという立場です。

同じ決定は、精神状態の鑑定についても踏み込んでいます。家事訴訟法第45条の2第1項は成年後見・限定後見の審判に際して医師の鑑定を原則としつつ、精神状態を判断するに足りる他の十分な資料がある場合を除外しています。大法院は、この規定の趣旨は「医学上の精神能力を基礎として開始要件の充足を裁判所が判断せよ」という点にあり、他に十分な資料があれば医師の鑑定がなくとも開始できるとしました。※ 鑑定を省けるかどうかは資料の内容次第であり、実務上は診断資料の準備が必要になる場面が大半です。

日本にいても、韓国の裁判所は動く

国境をまたぐご家族からは「日本にいるのだから韓国では何もできないのでは」という前提でのご相談をいただきます。制度上はそうではありません。国際私法第61条第1項は、成年者の後見に関する事件について、次のいずれかに当たれば韓国の裁判所に国際裁判管轄があると定めています。

状況韓国の裁判所で後見を開始できるか
本人の常居所が韓国にある(韓国で暮らす親という典型例)可能 — 国際私法第61条第1項第1号
本人が韓国国籍である(現在国外にいても)可能 — 同項第2号
本人の財産が韓国にあり、本人を保護する必要がある可能 — 同項第3号

準拠法は別の条文が定めます。後見は原則として被後見人の本国法によります(国際私法第75条第1項)。もっとも、韓国の裁判所が第61条により外国人の後見事件を裁判するときは、①本国法上の後見開始原因があっても後見事務を行う者がいない、または行えない場合、②韓国で後見開始の審判(任意後見監督人選任の審判を含む)をした、もしくはする場合、③本人の財産が韓国にあり保護の必要がある場合、のいずれかに当たれば韓国法によります(同条第2項)。

この二段構えが、日韓のご家族には実際的な差を生みます。韓国籍を維持している在日の親であれば本国法は韓国法であり、韓国の裁判所での後見は韓国民法の枠組みで進むことになります。一方、日本国籍を取得された親について韓国の不動産の保護が必要だという場合には、外国人の後見事件として第75条第2項の各号に当たるかが検討対象となります。どちらに当たるかで、選任される後見人の権限の中身も、韓国側の金融機関や登記実務での通り方も変わってきます。

なお、日本の家庭裁判所ですでに後見が開始している場合であっても、その審判が韓国の銀行・登記所でそのまま通用するとは限りません。韓国国内の財産を実際に動かす必要があるときは、韓国での手続を別途検討することになります。この点は事案ごとの判断が分かれるところで、事前の見立てが結論を大きく左右します。

申立てをした人が後見人になるとは限らない

ご家族が意外に思われるのがここです。成年後見人は家庭裁判所が職権で選任します(民法第936条第1項)。選任にあたって裁判所は、被成年後見人の意思を尊重しなければならず、あわせて本人の健康・生活関係・財産状況、後見人となる者の職業と経験、本人との利害関係の有無などを考慮します(同条第4項)。法人が後見人となる場合には、事業の種類と内容、法人やその代表者と本人との利害関係も考慮事項です。

海外に住むご家族にとって、この規定は二つの意味を持ちます。第一に、親から数千キロ離れて暮らす候補者は、日常の判断を現実に担えることを裁判所に示す必要があります。第二に、きょうだいの間に不信がある場合や、韓国国内に適任の親族がいない場合、裁判所が中立の第三者や法人を選任することがあります。これは家族の申立てが失敗したという意味ではなく、対立のある事案では本人の保護として合理的な帰結であることも少なくありません。

選ばれた後見人も「自由」ではない

成年後見は「見知らぬ他人に親を取られる制度」と恐れられることもあれば、逆に「財産の支配権を得る手段」と期待されることもあります。どちらも制度の姿とは違います。後見人は家庭裁判所の継続的な監督の下で職務を行い、重要な判断は裁判所の手元に残されているからです。

被成年後見人は、自らの身上について、その状態が許す範囲で単独で決定します(民法第947条の2第1項)。治療等の目的で精神病院その他の場所に隔離しようとする場合には家庭裁判所の許可が必要です(同条第2項)。身体を侵害する医療行為について本人が同意できない場合、後見人が代わって同意できますが、直接の結果として死亡または相当の障害を負う危険があるときは、原則として家庭裁判所の許可を要します(同条第3項・第4項)。

そして財産面で最も実務的な条文が第947条の2第5項です。本人が居住している建物またはその敷地について、売却・賃貸・伝貰権設定・抵当権設定・賃貸借の解除・伝貰権の消滅などを後見人が代理して行うには、家庭裁判所の許可が必要とされています。「後見人になったのだから実家を売って介護費用に充てられる」と考えていたご家族が、ここで一段階の審査を経ることになります。

後見の開始や後見人の権限は後見登記簿に記録され、本人・配偶者・4親等以内の親族・後見人などが使用目的を指定して登記事項証明書の交付を請求できます(後見登記に関する法律第15条第1項)。この証明書が、韓国の金融機関や登記実務で権限を示す資料となります。日本の登記事項証明書に相当する運用ですが、請求できる者と目的が法律で限定されている点には注意が必要です。

判断能力があるうちにできること

親御さんにまだ十分な判断能力がある段階でご相談をいただけた場合、選択肢は広がります。韓国の後見契約(任意後見)は、精神的制約により事務処理能力が不足する状況に備えて、財産管理および身上保護に関する事務の全部または一部を他の者に委託し、その事務について代理権を授与する契約です(民法第959条の14第1項)。契約は公正証書で締結しなければならず(同条第2項)、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます(同条第3項)。裁判所・任意後見人・任意後見監督人は、契約の履行・運営にあたり本人の意思を最大限尊重しなければなりません(同条第4項)。

逆に言えば、判断能力が失われてからでは、この選択肢は閉じます。委任状も同じで、署名当時に本人が内容を理解できていたことが前提となるため、能力低下後に作られた書面や、古い包括委任状に韓国の金融機関が応じてくれるとは限りません。「まだ大丈夫」と見えている時期こそ、法的な備えを整えられる唯一の時間帯です。

押さえておきたい点

・韓国では、家族であることだけを理由に成人の財産を動かす権限は生じません。家庭裁判所の審判が出発点です(民法第9条)。

・本人の常居所が韓国、韓国国籍、または韓国に財産があって保護の必要がある場合、韓国の裁判所に管轄があります(国際私法第61条第1項)。日本から始められます。

・準拠法は原則として本人の本国法。外国人の事件で韓国法が適用される場合は国際私法第75条第2項の各号に限られます。

・後見人は裁判所が職権で選任し、申立人が当然に後見人になるわけではありません(民法第936条第1項)。

・居住用不動産の処分には、後見人であっても別途、家庭裁判所の許可が必要です(民法第947条の2第5項)。

・判断能力があるうちであれば、公正証書による後見契約という選択肢があります(民法第959条の14)。

よくあるご質問

日本に住む子どもでも、韓国の裁判所に成年後見開始を請求できますか。

民法第9条第1項は請求権者として本人、配偶者、4親等以内の親族などを挙げており、子はこれに含まれます。居住地が日本であることを理由に請求権者から外れる規定はありません。あわせて、国際私法第61条第1項の管轄要件(常居所・国籍・韓国内の財産と保護の必要)のいずれかを満たす必要があります。

親が日本国籍の場合、韓国の裁判所は韓国法で判断しますか。

後見は原則として被後見人の本国法によります(国際私法第75条第1項)。韓国の裁判所が第61条により外国人の後見事件を裁判する場合に韓国法が適用されるのは、同条第2項各号のいずれかに当たるときです。ご家族の事案がどれに当たるかは、財産の所在や本国での後見の状況によって変わりますので、事前の確認が必要です。

日本の家庭裁判所で後見が開始しています。韓国でも同じように使えますか。

日本の審判があることと、その内容が韓国の銀行や登記所でそのまま通用することは別の問題です。韓国国内にある財産を実際に処分・管理する必要がある場合には、韓国側での手続を別途検討することになります。事案の内容によって見通しが分かれる領域です。

申立てをすれば、私が後見人になれますか。

成年後見人は家庭裁判所が職権で選任します(民法第936条第1項)。裁判所は本人の意思を尊重し、健康・生活関係・財産状況、候補者の職業と経験、本人との利害関係などを考慮します(同条第4項)。親族間に対立がある事案などでは、中立の第三者が選任されることもあります。

後見人になれば、韓国の実家をすぐ売却できますか。

できません。本人が居住している建物または敷地の売却・賃貸・抵当権設定などを後見人が代理して行うには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第947条の2第5項)。介護費用の捻出が目的であっても、この審査を経ることになります。

韓国にいるご家族の財産管理でお困りの場合

成年後見は、どの類型を求めるか、誰を後見人候補とするか、準拠法がどちらになるかで、進み方も結論も変わります。判断能力の低下が進むほど選べる手段は狭まり、その間にも入院費や不動産の期限は動き続けます。韓国側の状況が今どうなっているのかを早い段階で整理しておくことが、ご家族の負担を最も軽くします。

ご相談は日本語で承ります。LINE(ID: @243hjkda)からお気軽にご連絡ください。

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執筆 金坪浩(キム・ピョンホ)弁護士/汝諧法律事務所 代表弁護士

司法試験合格。2014年以来、全分野累計500件以上の事件を取り扱ってまいりました。日本語でのご相談に対応しています。

ソウル特別市瑞草区法院路16、406号(瑞草洞、貞谷ビル)

本稿は韓国法の一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。具体的なご事情については個別にご相談ください。記載内容は執筆時点の法令に基づきます。

キム・ピョンホ(김평호)弁護士
キム・ピョンホ(김평호)弁護士
大韓弁護士協会 · 司法研修院43期 · 2021年優秀弁護士賞 · 2014年以来、全分野累計500件以上