日本の家庭裁判所で養育費の額は決まっている。調停調書も、審判書も手元にある。それでも入金は止まったままで、相手は韓国にいる——このとき最初に立ちはだかるのは、金額の問題ではなく「その紙が韓国では執行力を持たない」という問題です。養育費を韓国で強制執行するには、韓国の法院でもう一つの裁判を通す必要があります。
本記事では、日韓にまたがる養育費の回収について、韓国側で何が関門になるのかを、韓国の弁護士の視点で整理します。韓国国内での養育費の算定基準や請求手続きそのものについては、韓国の養育費請求の解説もあわせてご参照ください。
日本の調停調書だけでは、韓国の財産を差し押さえられない
韓国の民事執行法第26条第1項は、「外国法院の確定判決またはこれと同一の効力が認められる裁判(以下『確定裁判等』という)に基づく強制執行は、大韓民国の法院で執行判決によりその強制執行を許可しなければ、することができない」と定めています。日本の決定書を韓国の銀行や執行官に直接提出しても手続は始まらず、まず韓国の法院から執行判決を得る、という順序です。
この執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍がある地の地方法院が管轄します(同条第2項)。相手が韓国のどこに住んでいるかによって、訴えを起こす法院が変わることになります。
そして重要なのは、韓国の法院はこの手続で日本の裁判の内容が正しいかどうかを審査しないという点です(民事執行法第27条第1項)。審査されるのは「韓国で執行を許してよい裁判か」だけです。逆にいえば、その入口の要件を一つでも満たせないと判断されれば、訴えは却下されます(同条第2項)。
承認の4要件 — 何が争点になりやすいか
執行判決の可否は、民事訴訟法第217条第1項が定める承認要件にかかっています。法院はこれを職権で調査します(同条第2項)。
| 要件(民事訴訟法217条1項) | 日韓の養育費事案で問題になりやすい点 |
|---|---|
| ① 国際裁判管轄権 | 韓国の法令または条約による国際裁判管轄の原則から見て、日本の家庭裁判所に管轄が認められるか。当時の当事者・子の居住状況が資料で示せるかが分かれ目になります。 |
| ② 送達または応訴 | 敗訴した被告が、防御に必要な時間的余裕をもって適法な方式で送達を受けたか、または応訴したか。公示送達およびこれに類する送達による場合は除かれます。相手がすでに韓国へ移っていた事案では、ここが最も脆い部分になりがちです。 |
| ③ 公序(善良な風俗・社会秩序) | 承認の結果が韓国の社会秩序に反しないか。子の養育を目的とする通常の給付それ自体が問題視されることは通常考えにくい一方、韓国で並行して出された裁判との関係が争点になり得ます。 |
| ④ 相互保証 | 相互保証があるか、または両国の承認要件が重要な点で実質的に異ならないか。日本の裁判については実務上肯定的に評価されてきた領域ですが、法院が職権で調査する事項であり、事件ごとの立証が求められます。 |
そもそも「確定裁判等」に当たるか — 2026年4月の大法院判断
4要件の手前に、もう一つの関門があります。日本で得たその書面が、民事執行法第26条第1項のいう「確定裁判等」に当たるかどうかです。
大法院は2026年4月30日宣告2023다295978判決で、この点についての判断枠組みを示しました。同判決は、「確定裁判等」とは、裁判権を有する外国の司法機関が、その権限に基づき私法上の法律関係について、対立的当事者に対する審問等で意見陳述の機会が保障される手続において終局的にした裁判であって、具体的給付の履行などその強制的実現に適した内容を有するものを意味すると述べています。さらに、外国裁判で確認された権利の強制実現を超える内容の執行判決を求めることは、制度の趣旨に反して許されないとしました。
公序要件についても、同判決は、承認の結果が韓国の社会秩序に反するかは判断時点を基準に、当該裁判が扱った事案と韓国との関連性の程度に照らして判断すべきであり、その際は主文だけでなく理由、さらに承認した場合に生じる結果まで総合して検討しなければならないと整理しました。そして当該事件では、外国法院の命令が韓国の法院の確定審判と抵触することを理由に、承認は公序に反すると判断されています。
※この判決が扱ったのは相続財産管理人の選任をめぐる外国法院の検認命令に関する事案であり、養育費の裁判について判断したものではありません。ここで参照しているのは「確定裁判等」の意味と公序判断の方法という一般的な法理であり、個々の日本の調停調書・審判がこれを満たすかは、その書面の性質と手続経過に即した個別の検討を要します。
執行判決を得た後 — できることと、そのままでは届かないこと
執行判決を得た日本の裁判は、韓国で強制執行の基礎となります。給与・預金・不動産といった韓国内の財産に対する通常の金銭執行の道が開かれる、というのがその実質です。
一方で、韓国には養育費の不払いに対する強い制度が別に用意されており、それらは適用の前提が定められています。ここを取り違えると、期待していた手段に届かないという事態になります。
| 韓国の手段 | 条文上の前提 |
|---|---|
| 養育費直接支給命令 (勤務先からの直接支給) |
正当な事由なく2回以上支給しない場合に、定期金養育費債権についての執行権原を有する債権者の申立てにより命じ得るとされています(家事訴訟法第63条の2第1項)。差押命令と転付命令を同時に命じたのと同じ効力を持ちます(同条第2項)。 |
| 履行命令 → 過料 → 監置 | 履行命令の対象は判決・審判・調停調書・調停に代わる決定・養育費負担調書による義務と定められています(家事訴訟法第64条第1項)。違反には1千万ウォン以下の過料(同法第67条第1項)、定期金を正当な理由なく3期以上履行しない場合は30日の範囲で監置(同法第68条第1項第1号)が予定されています。 |
| 運転免許停止・出国禁止・名簿公開 | いずれも家事訴訟法第63条の3第4項の一時金支給命令、または第64条第1項第1号の履行命令の決定を受けたにもかかわらず履行しない債務者を前提としています(養育費履行確保および支援に関する法律第21条の3・第21条の4・第21条の5)。免許停止には生計維持を理由とする除外が、名簿公開には10日以上の疎明機会が定められています。 |
表のとおり、直接支給命令は「執行権原を有する債権者」を要件としている一方、履行命令は対象となる文書が列挙されています。外国の裁判について執行判決を得た場合にこの列挙にどう位置づけられるかは、条文の文言上は自明ではなく、事案ごとの検討を要する論点です。強い制裁措置ほど、その前段にある韓国の家庭裁判所の判断を経ていることが前提になっている、という構造は押さえておく必要があります。
「韓国で改めて申し立てる」という道は原則として開かれていない
日本の裁判の内容に納得がいかないので韓国の家庭裁判所で改めて争う——この発想は、韓国法では原則として通りません。
国際私法第11条第3項は、「法院は、大韓民国の法令または条約による承認要件を備えた外国の裁判がある場合、同じ当事者間でその裁判と同一の訴えが法院に提起されたときは、その訴えを却下しなければならない」と定めています。裁量ではなく、却下が義務づけられた規定です。
大法院も2025年6月12日宣告2024다315527、315534判決で、勝訴確定判決を得た当事者が前訴の相手方に対して再び同一の請求の訴えを提起する場合、その後訴は権利保護の利益がなく不適法であり、これは外国法院で民事訴訟法第217条の承認要件を備えた勝訴確定判決を得た当事者が、韓国の法院に同一の請求の訴えを提起した場合も同様であると判示しました。
したがって実務上の分岐は、「執行判決の道を選ぶか、韓国で新たに申し立てる道を選ぶか」という選択ではありません。日本の裁判が承認要件を備えているかが先に決まり、それによって進める道が決まる、という順序です。備えていれば、韓国で同じ内容を蒸し返すことはできず、執行判決を経て回収へ進むことになります。逆に承認要件に欠けるところがあれば、執行判決の訴えは却下され(民事執行法第27条第2項第2号)、その先の組み立てを別に考えることになります。承認要件を満たしているかは法院の職権調査事項です(民事訴訟法第217条第2項)。
なお同判決は相互保証について、条約が締結されている必要はなく、外国の法令・判例・慣例によって承認要件を比較して認められれば足り、その外国で韓国の同種の判決を承認した具体的な事例がなくとも実際に承認すると期待できる程度であれば足りる、と整理しています。この基準は家事の判決についても用いられており、大法院2013年2月15日宣告2012므66、73判決は、米国オレゴン州の離婚判決(子の親権・養育権の帰属を含む内容)について、同じ枠組みで相互保証の要件を認めた原審の判断を維持しました。
子が韓国で暮らしている場合 — 「変更の審判」という別の枠組み
ここまでは、子が日本にいて相手が韓国にいる場面を前提にしてきました。逆に、子が韓国に日常居所を持つ場合は、韓国側の枠組みが変わります。
扶養に関する事件は、扶養権利者の日常居所が韓国にあれば韓国の法院に国際裁判管轄が認められ(国際私法第60条第1項)、扶養義務の準拠法も原則として扶養権利者の日常居所地法、つまり韓国法になります(同法第73条第1項)。大法院2023年10月31日付2023스643決定は、外国的要素のある事件では準拠法についての当事者の主張がなくとも、法院に職権での審理・調査義務があるとしています。
そこで問題になるのが、日本で決まった養育費を韓国の家庭法院が「変更」できるのかです。ここで押さえるべきは、韓国の家庭法院が日本の裁判の主文を書き換えるのではないという点です。家事訴訟法は「民法第837条…による子の養育に関する処分とその変更」を家庭法院の管掌事項として定めており(第2条第1項第2号ナ目3)、民法第837条第5項は、家庭法院が子の福利のために必要と認める場合に、父・母・子および検事の請求または職権で、子の養育に関する事項を変更し、またはその他適当な処分をすることができるとしています。韓国の法院が自らの権限で新たに審判をする、という構造です。
大法院2024年7月18日付2018스724全員合議体決定も、養育費についての家庭法院の審判は後見的な立場から裁量的・形成的に行われるものであり、子が未成年である間は額が固定されておらず変動可能性が内在している養育費を具体的に定めるものだと述べています。養育費の裁判は、一度出れば動かないという性質のものではありません。
もっとも、これは「日本の裁判に納得できないから韓国で取り直す」ことを認めるものではありません。変更が認められるには、定められた養育費の負担内容が不当となったといえるだけの事情の変更が必要で、その「不当」かどうかは子の福利のために必要かを基準に判断されます(大法院2023年8月18日付2023스574決定)。事情の変更を示せないまま同じ内容を争えば、承認要件を備えた外国の裁判との関係で、先に述べた第11条第3項の問題に戻ります。
そしてもう一つ、時間の区切りに注意が要ります。変更の審判が規律するのは、その審判が定める時点より後の部分であるのが通常です。それ以前にすでに発生した未払分は、なお日本の裁判が規律する領域にあり、韓国で回収するにはやはり執行判決が必要になり得ます。「韓国で変更の審判を得ること」と「過去の未払分を回収すること」は、同じ手続では完結しないことがある——ここが見落とされやすい部分です。
逆に、子が日本で暮らしているのであれば国際私法第60条第1項の管轄には当たらず、準拠法も日本法となり得ます。「韓国で争えば韓国の基準で決まる」という前提は、どちらの向きでも成り立ちません。
回収できるかは、制度より相手の資産で決まる
率直に申し上げると、執行判決を得ても回収が保証されるわけではありません。差押えの対象になる韓国内の給与・預金・不動産が実在しなければ、判決文は回収に結びつきません。制裁措置も、相手に免許や出入国の必要があってはじめて圧力として働きます。相手が制裁を受け入れる姿勢であれば、それでも支払われないことはあり得ます。
この点は、韓国の制度が不十分だからというより、金銭債権の回収という営みに共通する限界です。だからこそ、時間と費用をどこに投じるのか——手元の書面が承認要件を満たすと見込めるのか、相手の資産状況の把握を先行させるべきか、日本側で先にできることが残っていないか——という順序の判断が、結果を大きく分けます。書類が日本語であること、日本の家事手続と韓国の家事執行実務の双方を突き合わせる必要があることも、この判断を一人で行うことを難しくしています。
重要ポイント
・日本の調停調書・審判は、韓国では執行判決(民事執行法26条)を経なければ強制執行の基礎にならない。管轄は債務者の普通裁判籍がある地の地方法院。
・内容の当否は審査されず、民事訴訟法217条1項の4要件(管轄・送達/応訴・公序・相互保証)を法院が職権で調査する。送達の適法性が争点になりやすい。
・その手前に「確定裁判等」に当たるかという関門がある(大法院2026年4月30日宣告2023다295978判決の法理)。
・承認要件を備えた外国の裁判がある場合、同一の訴えは却下しなければならない(国際私法11条3項、大法院2025年6月12日宣告2024다315527・315534判決)。韓国で内容を蒸し返す道は原則として開かれていない。
・ただし子が韓国に日常居所を持つ場合は、国際私法60条1項の管轄と73条1項による韓国法の適用が問題となり、民法837条5項・家事訴訟法2条1項2号ナ目3による「変更の審判」という別の枠組みが立つ。事情の変更が前提であり、それ以前の未払分には別に執行判決を要し得る。
・運転免許停止・出国禁止・名簿公開は、家事訴訟法上の一時金支給命令または履行命令を前提とする制度であり、外国裁判の執行判決だけで当然に届くものではない。
よくある質問
Q. 日本の家庭裁判所で決まった養育費を、韓国にいる相手にそのまま強制執行できますか?
できません。韓国の民事執行法第26条第1項は、外国法院の確定判決またはこれと同一の効力が認められる裁判(確定裁判等)に基づく強制執行は、韓国の法院の執行判決によって許可されなければならないと定めています。執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍がある地の地方法院が管轄します(同条第2項)。つまり日本の決定書そのものを韓国の執行機関に持ち込むのではなく、韓国でもう一つの裁判を経る構造です。
Q. 韓国の法院は執行判決で何を審査するのですか?
内容の当否は審査しません(民事執行法第27条第1項)。確定の証明がないとき、または民事訴訟法第217条の条件を備えていないときは訴えが却下されます(同条第2項)。第217条第1項は、①外国法院の国際裁判管轄権、②敗訴した被告への適法な送達または応訴、③承認が韓国の善良な風俗その他の社会秩序に反しないこと、④相互保証または承認要件に実質的な差異がないこと、の4要件を定め、法院はこれを職権で調査します(同条第2項)。
Q. 執行判決を得れば、運転免許停止や出国禁止といった韓国の制裁措置も使えますか?
そのまま使えるとは限りません。養育費履行確保および支援に関する法律の運転免許停止処分要請(第21条の3)、出国禁止要請(第21条の4)、名簿公開(第21条の5)は、いずれも家事訴訟法第63条の3第4項の一時金支給命令、または同法第64条第1項第1号の履行命令の決定を受けたにもかかわらず履行しない債務者を前提としています。そして履行命令の対象は、判決・審判・調停調書・調停に代わる決定・養育費負担調書と定められています(家事訴訟法第64条第1項)。外国の裁判に執行判決を得た場合にこれらの制度をどう使えるかは、個別に検討を要する論点です。
Q. 韓国の家庭裁判所で改めて養育費を請求することはできますか?
同一の請求については原則としてできません。国際私法第11条第3項は、大韓民国の法令または条約による承認要件を備えた外国の裁判がある場合、同じ当事者間でその裁判と同一の訴えが法院に提起されたときは、その訴えを却下しなければならないと定めています。大法院も2025年6月12日宣告2024다315527、315534判決で、外国法院で民事訴訟法第217条の承認要件を備えた勝訴確定判決を得た当事者が韓国の法院に同一の請求の訴えを提起した場合、その後訴は権利保護の利益がなく不適法であると判示しました。事情の変更を理由に額の変更を求める場合は別の問題ですが(民法第837条第5項)、扶養に関する事件の国際裁判管轄は扶養権利者の日常居所が韓国にある場合に認められ(国際私法第60条第1項)、準拠法も原則として扶養権利者の日常居所地法によるため(同法第73条第1項)、個別の検討が必要です。
Q. 子が韓国で暮らしている場合、韓国の家庭裁判所で養育費を変更してもらえますか?
扶養権利者である子の日常居所が韓国にあれば韓国の法院に国際裁判管轄が認められ(国際私法第60条第1項)、扶養義務の準拠法も原則として韓国法になります(同法第73条第1項)。この場合、家庭法院は日本の裁判の主文を書き換えるのではなく、家事訴訟法第2条第1項第2号ナ目3および民法第837条第5項に基づき、子の福利のために必要と認めるときに自らの権限で養育に関する事項を変更する審判をします。ただし変更が認められるには、定められた負担内容が不当となったといえるだけの事情の変更が必要であり、その判断基準は子の福利のために必要かどうかです(大法院2023年8月18日付2023스574決定)。また変更の審判が規律するのは通常その審判が定める時点より後の部分であり、それ以前に発生した未払分の回収には別途執行判決が必要になり得ます。
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金平浩弁護士(キム・ピョンホ)
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。大韓弁護士協会 離婚専門弁護士登録。2021年 大韓弁護士協会 優秀弁護士賞受賞。
2014年以来、民事・刑事・家事など全分野で累計500件以上の事件を担当。
本記事は一般的な法律情報であり、個別事案についての法的助言ではありません。具体的な事案については弁護士にご相談ください。
여해법률사무소(ヨヘ法律事務所)— 韓国における外国人のための法律相談。
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