この記事の冒頭は、複数の事案で繰り返される経過を一般化した仮想の状況です。特定の依頼者の事件とは関係がありません。
書面はそろっている、というところまでは来ていました。日本の家庭裁判所で養育費の額が決まり、韓国の法院で執行判決も得た。あとは差し押さえるだけ——そう思って韓国の弁護士に尋ねると、最初に返ってくるのは「相手のどの財産を差し押さえますか」という問いです。
差押えは、対象を特定して申し立てる手続です。どの銀行の口座か、どの会社からの給与か、どの不動産か。それが分からないままでは、執行力のある書面を持っていても手続は動きません。相手が国境の向こうに移って何年も経っていれば、勤務先も口座も、こちらが知っていた頃のままではないのが普通です。
韓国法は、この空白のために別の手続を用意しています。債務者自身に財産の一覧を出させる財産明示と、法院が公共機関・金融機関に直接照会する財産照会です。本記事では、養育費の回収という文脈で、この二つがどのような要件で動き、どこで止まるのかを整理します。
重要ポイント
- 差押えの前提として、韓国には財産明示(民事執行法第61条以下)と財産照会(同法第74条)が置かれている。
- 財産明示命令は公示送達によることができない(同法第62条第5項)。相手の所在が不明な事案では、ここが最初の関門になる。
- 明示期日に提出する財産目録には、命令送達前1年以内の不動産有償譲渡、親族への財産の有償譲渡、2年以内の無償処分も記載させられる(同法第64条第2項各号)。
- 不出頭・提出拒否・宣誓拒否は20日以内の監置(同法第68条第1項)、虚偽の財産目録は3年以下の懲役または500万ウォン以下の罰金(同条第9項)。
- 財産照会が開くのは三つの場合に限られ、照会先の特定と費用の予納は債権者の負担(同法第74条第1項・第2項)。
- 家事訴訟法にも財産明示(第48条の2)・財産照会(第48条の3)があるが、こちらは係属中の請求事件のための手続であり、制裁は過料である(第67条の3)。
執行権原があることと、回収できることは別である
日本の調停調書・審判を韓国で使うには、韓国の法院で執行判決を得る必要があります(民事執行法第26条第1項)。この入口の議論については韓国で養育費を強制執行するで扱いました。
執行判決を得た後に残るのが、本記事の問題です。執行力は「国家の力を借りて取り立ててよい」という資格であって、「相手の財産の所在を教えてもらえる」ことを意味しません。財産の所在は、原則として債権者の側で示すことになっています。
とはいえ、債権者が他人の口座や勤務先を独力で調べられるわけがありません。そこで法は、債務者本人に申告させる手続と、法院を通じて機関に問い合わせる手続を、順序をつけて置いています。順序がついている、という点が重要です。後者は前者が行われたことを前提としています。
二つのルート — 家事訴訟法と民事執行法
「財産明示」「財産照会」という同じ名前の制度が、韓国では二つの法律に置かれています。局面が違うため、要件も制裁も異なります。
| 家事訴訟法のルート | 民事執行法のルート | |
|---|---|---|
| 局面 | 財産分与・扶養料・未成年の子の養育費の請求事件が係属している間(第48条の2第1項) | 金銭の支払を目的とする執行権原に基づき強制執行を開始できる段階(第61条第1項) |
| 誰が動かすか | 家庭法院が職権で、または当事者の申立てにより | 債権者の申立てにより |
| 財産照会に進む条件 | 提出された財産目録だけでは事件の解決が困難と認められる場合(第48条の3第1項)。民事執行法第74条を性質に反しない範囲で準用 | 第74条第1項第1号~第3号のいずれかに当たる場合 |
| 目録の拒否・虚偽への制裁 | 1千万ウォン以下の過料(第67条の3) | 20日以内の監置(第68条第1項)/虚偽目録は3年以下の懲役または500万ウォン以下の罰金(同条第9項) |
| 照会結果の目的外使用 | 審判外の目的で使用してはならず(第48条の3第4項)、違反は2年以下の懲役または500万ウォン以下の罰金(第73条) | 法院は照会結果を財産目録に準じて管理する(第75条第1項) |
日本の裁判で額が決まっている事案は、韓国では通常、右の列の局面に立ちます。左の列は、韓国の家庭法院で養育費の請求事件そのものが動いている場面のための制度だからです。
財産明示 — 相手の所在が分からないと、そこで止まる
財産明示の申立ては、債務者の普通裁判籍がある地の法院に対して行い、執行力ある正本と強制執行の開始に必要な文書を添付します(民事執行法第61条第1項・第2項)。仮執行の宣告が付された判決等は、この申立ての対象から除かれています(同条第1項但書)。
申立てに正当な理由があると認められれば、法院は決定で財産目録の提出を命じます(同法第62条第1項)。逆に、正当な理由がないとき、あるいは債務者の財産を容易に見つけることができると認められるときは、申立ては却下されます(同条第2項)。この裁判は債務者を審尋せずに行われます(同条第3項)。
そして、国際的な事案でしばしば行き止まりになるのがここです。財産明示命令は債務者に送達しなければならず、その送達に公示送達を用いることはできません(同条第5項)。命令が送達されないときは、法院は債権者に相当の期間を定めて住所の補正を命じ(同条第6項)、債権者が応じられなければ、法院は命令を取り消して申立てを却下しなければなりません(同条第7項)。相手が韓国のどこにいるのかが分からない状態では、財産明示という入口そのものが閉じます。
なお送達の形式については、大法院2003年10月14日付2003マ1144決定が、財産明示命令はその性質上正本の送達を必要とするものとはいえないとして、民事訴訟法第178条第1項により謄本による送達も可能であると判示しています。
明示期日に書かせるもの — 過去にさかのぼる部分
債務者からの異議がないか、異議が棄却されたときは、法院は明示のための期日を定めて債務者に出頭を求めます(同法第64条第1項)。債権者にもこの期日は通知されます。
債務者が期日に提出する財産目録には、強制執行の対象となる財産に加えて、次の事項が含まれます(同条第2項各号)。
| 記載させられる過去の処分 | さかのぼる期間 |
|---|---|
| 債務者が行った不動産の有償譲渡(第1号) | 財産明示命令の送達前1年以内 |
| 配偶者・直系血族・4親等以内の傍系血族とその配偶者、配偶者の直系血族および兄弟姉妹に対して行った、不動産以外の財産の有償譲渡(第2号) | 財産明示命令の送達前1年以内 |
| 債務者が行った財産上の無償処分(第3号、儀礼的な贈り物を除く) | 財産明示命令の送達前2年以内 |
現在の残高だけでなく、直前の期間に財産がどこへ動いたかまで申告の対象になっている、という設計です。財産目録に記載すべき事項と範囲は最高法院規則で定められます(同条第3項)。
なお、期日に出頭した債務者が3か月以内に弁済できることを疎明したときは、法院は期日を3か月の範囲で延期することができ、新期日に債務額の3分の2以上を弁済したことを証明する書類を提出したときは、さらに1か月の範囲で延期できます(同条第4項)。制度は、支払う意思のある債務者に時間を与える構造も併せ持っています。
出頭しない、あるいは嘘を書く場合
債務者が正当な事由なく、①明示期日に出頭しない、②財産目録の提出を拒む、③宣誓を拒む、のいずれかに当たるときは、法院は決定で20日以内の監置に処します(同法第68条第1項各号)。この決定に対しては即時抗告ができます(同条第4項)。
監置の執行中に債務者が財産明示命令を履行すると申し出たときは、法院は直ちに明示期日を開かなければならず(同条第5項)、債務者が出頭して財産目録を提出し宣誓するか、申立債権者に対する債務を弁済してそれを証明する書面を出したときは、法院は直ちに監置決定を取り消して釈放を命じます(同条第6項)。監置は罰そのものというより、履行を促すための身柄拘束として組まれています。
これとは別に、虚偽の財産目録を提出した場合には3年以下の懲役または500万ウォン以下の罰金が定められています(同条第9項)。過料ではなく刑事罰です。財産を隠して形だけ目録を出すという対応は、この条文の射程に入ります。
財産照会 — 三つの入口
財産明示だけでは足りないときに開くのが財産照会です。財産明示手続の管轄法院は、次のいずれかに当たる場合に、財産明示を申し立てた債権者の申立てにより、個人の財産および信用に関する電算網を管理する公共機関・金融機関・団体等に対して、債務者名義の財産について照会することができます(同法第74条第1項)。
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 第1号 | 財産明示手続で債権者が第62条第6項の住所補正命令を受けながら、民事訴訟法第194条第1項の事由により補正を履行できなかったと認められる場合 |
| 第2号 | 財産明示手続で債務者が提出した財産目録の財産だけでは、執行債権の満足を得るのに不足する場合 |
| 第3号 | 財産明示手続で第68条第1項各号の事由(不出頭・提出拒否・宣誓拒否)または同条第9項の事由(虚偽目録)がある場合 |
第1号が置かれていることには意味があります。財産明示命令が送達できず、住所補正もできなかった——つまり前節の行き止まりに当たった場合が、そのまま財産照会の入口の一つになっているからです。閉じた扉の横に、別の扉が用意されている構造です。
もっとも、この扉は自動で開くものではありません。債権者は照会する機関・団体を特定しなければならず、照会に要する費用を予め納めなければなりません(同条第2項)。どこに何を尋ねるかは、申し立てる側が決めることになっています。照会を受けた公共機関・金融機関・団体等は、正当な事由なくこれを拒むことができず(同条第4項)、正当な事由なく虚偽の資料を提出し、または提出を拒んだときは500万ウォン以下の過料に処せられます(同法第75条第2項)。法院は照会の結果を債務者の財産目録に準じて管理します(同条第1項)。
日本の裁判に基づく事案で、あわせて確認されること
民事執行法第61条第1項は、財産明示を申し立てられる者を「金銭の支払を目的とする執行権原に基づいて強制執行を開始することができる債権者」と定めています。日本の裁判については、韓国の法院で執行判決を得ることでこの前提が整う、という順序になります。
一方、韓国の家事訴訟法が用意している別系統の手段——履行命令とそれに続く過料・監置、そして養育費履行確保および支援に関する法律による運転免許停止・出国禁止・名簿公開——は、条文上の前提の書き方が異なります。履行命令の対象は「判決、審判、調停調書、調停に代わる決定または養育費負担調書」による義務と列挙されており(家事訴訟法第64条第1項)、運転免許停止・出国禁止・名簿公開は、いずれも一時金支給命令または履行命令の決定を受けたにもかかわらず履行しない債務者を前提としています(同法第63条の3第4項、第64条第1項第1号、養育費履行確保および支援に関する法律第21条の3~第21条の5)。外国の裁判に執行判決を得た場合にこれらの列挙にどう位置づけられるかは、条文の文言からただちに導かれるものではなく、事案ごとの検討を要する論点です。
また、履行命令そのものにも範囲の限界があります。大法院2025年5月23日付2025ウ517決定は、家事訴訟法第64条の履行命令は既に確定している権利を実現するための手続の一部であって、確定している義務の内容を変更したり義務者に新たな義務を創設したりすることはできず、履行命令をする時点までに義務者が履行していない義務の全部または一部についてのみ行うことができると判示しました。未払額を超える金額の履行命令をした原審決定は、この理由で破棄されています。
制度が届く範囲
率直に申し上げると、財産明示と財産照会を尽くしても、回収が保証されるわけではありません。
第一に、これらは財産の所在を明らかにする手続であって、支払わせる手続ではありません。判明した財産に対して、あらためて差押えの手続を執ることになります。第二に、照会の結果として差し押さえるに足る財産が出てこないこともあります。制度が正常に機能した結果として「見つからなかった」という答えが返ってくることは、現実にあります。第三に、監置や刑事罰は義務者に対する制裁であって、それ自体が未払分の入金を意味するものではありません。第四に、国際的な事案では、日本語の書面の翻訳、送達、証明の準備に時間が加わり、手続全体が長くなります。
それでも、この段階を飛ばすことはできません。差押えの対象が特定できていない限り、執行判決を得た書面は使われないまま手元に残ります。時間と費用をどこに投じるべきかは、手元にある書面の種類、相手の生活実態、これまでの経過によって変わり、記事の一般論では代替できない判断です。
よくあるご質問
Q. 相手の預金口座や勤務先が分からなくても、韓国で養育費の強制執行はできますか。
差押えは対象を特定して申し立てるため、対象が分からないままでは執行に進めません。韓国の民事執行法は、この段階のために財産明示(第61条以下)と財産照会(第74条)を用意しています。金銭の支払を目的とする執行権原に基づいて強制執行を開始できる債権者は、債務者の普通裁判籍がある地の法院に財産明示を申し立てることができ(第61条第1項)、申立てには執行力ある正本と強制執行の開始に必要な文書を添付します(同条第2項)。ただし仮執行の宣告が付された判決等はこの申立ての対象から除かれています(同条第1項但書)。
Q. 財産明示命令は、相手の住所が分からなくても送達できますか。
できません。民事執行法第62条第5項は、財産明示命令の債務者への送達について、民事訴訟法第187条および第194条による方法ではできないと定めています。つまり公示送達によることができません。命令が債務者に送達されないときは、法院は債権者に相当の期間を定めて住所の補正を命じ(同条第6項)、債権者がこれに応じなければ命令を取り消して申立てを却下します(同条第7項)。相手の所在が不明な事案では、この点が最初の関門になります。なお財産明示命令の送達は謄本によることができるとされています(大法院2003年10月14日付2003マ1144決定)。
Q. 財産照会はどのような場合に認められますか。
民事執行法第74条第1項は三つの場合を挙げています。第一に、財産明示手続で債権者が住所補正命令を受けながら、民事訴訟法第194条第1項の事由により補正を履行できなかったと認められる場合(第1号)。第二に、債務者が提出した財産目録の財産だけでは執行債権の満足を得るのに不足する場合(第2号)。第三に、財産明示手続で第68条第1項各号の事由または同条第9項の事由がある場合(第3号)です。申立てに際して債権者は照会先の機関・団体を特定し、照会に要する費用を予納しなければなりません(同条第2項)。
Q. 財産目録に嘘を書いた場合、どうなりますか。
民事執行法第68条第9項は、債務者が虚偽の財産目録を提出したときは3年以下の懲役または500万ウォン以下の罰金に処すると定めています。また明示期日への不出頭、財産目録の提出拒否、宣誓の拒否については、正当な事由がない限り20日以内の監置に処するとされています(同条第1項各号)。監置の執行中に債務者が命令の履行を申し出たときは法院は直ちに明示期日を開き、財産目録の提出と宣誓、または債務の弁済の証明があれば監置決定を取り消して釈放を命じます(同条第5項・第6項)。
Q. 家事訴訟法にも財産明示・財産照会があると聞きました。民事執行法のものと同じですか。
別の制度です。家事訴訟法第48条の2の財産明示は、財産分与・扶養料および未成年である子の養育費の請求事件のために特に必要と認められる場合に、家庭法院が職権でまたは当事者の申立てにより命じるものであり、係属中の請求事件のための手続です。同法第48条の3の財産照会は、提出された財産目録だけでは事件の解決が困難と認められる場合に行われ、民事執行法第74条がその性質に反しない範囲で準用されます。制裁の内容も異なり、家事訴訟法では財産目録の提出拒否・虚偽提出に1千万ウォン以下の過料が定められている一方(第67条の3)、民事執行法では監置と刑事罰が定められています(第68条第1項・第9項)。どちらの手続に載る局面かによって、使える条文が変わります。
ご相談にあたって
同じ「相手の財産が分からない」という状況でも、手元にある書面が何か、相手の所在についてどこまで分かっているか、これまでにどの手続を経ているかによって、次に置ける一手は変わります。財産明示が入口として使える事案か、それとも別の入口から入ることになるのかも、そこで分かれます。
汝諧法律事務所は、韓国人と日本在住の方との間の家事事件を継続的に扱ってきました。料金表を掲載していないのは、事案ごとに必要な業務量の幅が大きく、あらかじめ一律の金額を示すことがかえって不正確になるためです。ご相談の際に、想定される進め方とあわせてご説明します。
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本記事は韓国法に関する一般的な情報の提供を目的としており、個別の事案に対する法律助言ではありません。日本法については扱っていません。法令・判例は変更されることがあり、記事の内容が事後の変更を反映していない場合があります。個別の事案については弁護士にご相談ください。
