韓国での離婚で、会社の株式や自営業の事業用資産をどう財産分与するかは、名義が誰であるかではなく、その財産の形成・維持に実質的にどれだけ寄与したかで決まります。会社が夫(または妻)の単独名義であっても、婚姻中に築かれた価値であれば、他方配偶者の寄与が分与に反映され得ます。
もっとも、経営者夫婦の財産分与は、不動産や預金と違い「いくらの価値か」を確定すること自体が最大の争点になります。非上場株式や個人事業には市場価格がなく、評価の基準時や評価方法をめぐって主張が大きく分かれるためです。本記事では、韓国法における会社・自営業の財産分与の考え方を、日本法との違いにも触れながら韓国弁護士が整理します。
会社や自営業は財産分与の対象になるのか
韓国の財産分与は、協議離婚については民法第839条の2、裁判上の離婚についてはこれを準用する第843条に根拠があります。制度の中心にあるのは「名義」ではなく「実質的な寄与」です。大法院も、財産分与は財産の名義に関わらず、その形成および維持に寄与した程度など実質に従って各自の取り分を分けて帰属させる制度であると判示しています(大法院2025年10月16日宣告2024ム13669・13676判決)。
したがって、会社の株式や持分、自営業の事業用資産が一方配偶者の名義であっても、それが婚姻中に夫婦の協力によって形成・維持されたものであれば、財産分与の対象、または寄与として考慮され得ます。逆に、婚姻前から保有していた持分や、相続・贈与で得た事業用資産(特有財産)は原則として対象外ですが、他方配偶者が維持・増加に寄与した部分は考慮の対象になり得ます。どの範囲が対象になるかは、事案ごとの事実関係によって判断が分かれます。
何が「分割対象」になるのか — 株式・持分・事業用資産
会社・自営業をめぐる財産分与では、対象となり得る資産の性質を分けて考える必要があります。以下は代表的な類型と、実務で争点になりやすいポイントの整理です。
| 資産の類型 | 原則的な扱い | 主な争点 |
|---|---|---|
| 法人の株式・持分(非上場) | 婚姻中に形成された価値は対象・寄与考慮の対象となり得る | 株式の評価額、名義と実質、経営への寄与の程度 |
| 個人事業の事業用資産 | 婚姻中の協力で形成された分は対象となり得る | 事業用と個人用の区別、事業負債の扱い |
| 営業権(のれん)・顧客基盤 | 価値が認められる場合は考慮され得る | 属人性が強い場合の評価の可否 |
| 事業に投じた特有財産 | 原則対象外だが、維持・増加への寄与分は考慮され得る | 特有財産であることの立証、共同財産と混和した場合の切り分け |
評価が最大の争点 — 非上場株式・自営業の価値をどう算定するか
上場株式のように市場価格がある資産と異なり、非上場株式や個人事業の価値には確立した「時価」がありません。純資産価値、収益力、類似会社との比較など複数の評価方法があり、どれを重視するかによって結論が大きく動きます。実務では鑑定や専門家の評価を要することが多く、評価は事案ごとの個別判断になります。
評価の「基準時」も重要です。大法院は、分割対象財産を確定する基準時を事実審の弁論終結時とし、婚姻関係が破綻した後に生じた財産関係の変動のうち、夫婦が共同で形成した財産関係と無関係な後発的事情によるものは分割対象から除外すべきであると判示しています(前掲2024ム13669・13676判決)。会社の価値が破綻後に一方の努力や市場の変動で増減した場合、その扱いが争われることになります。どの事情がどの程度考慮されるかは、慎重な事実の検討に委ねられます。
どう分けるか — 対象分割(価額精算)が原則
会社や事業を物理的に「半分に切る」ことは通常できません。そのため実務では、一方が株式・持分や事業をそのまま保有し、他方に対してその価値に見合う金銭を精算する対象分割(価額分割)が原則的な方法となります。事案によっては現物分割が用いられることもあります。
なお、共有状態の資産を競売にかけて代金を分ける方法は、本来は共有物分割(民事)の領域であり、家庭法院の財産分与でそのまま用いられるものではありません。会社の持分や事業のように継続的な運営が前提となる資産では、対象分割による解決が現実的です。
また、相手方が離婚の前後に株式や事業用資産を処分・移転してしまうおそれがある場合には、財産分与請求権を保全するため、本案とは別に仮差押えなどの保全処分が必要になることがあります。これは財産分与の本案とは別個の手続きであり、申立ての時期が結果を左右し得るため、早い段階で弁護士に確認することが重要です。
日韓夫婦の場合 — 準拠法・管轄・2年の除斥期間
夫婦の一方が日本人、他方が韓国人といった日韓夫婦の場合、そもそもどの国の法律が適用されるか(準拠法)、どの国の裁判所に申し立てるか(管轄)が前提問題になります。これらは国際私法によって判断され、離婚の準拠法・財産分与の準拠法・管轄がそれぞれ問題になります。詳しくは準拠法の選び方、および国際離婚の管轄の記事もあわせてご覧ください。
また、財産分与請求権は、離婚成立から2年を経過すると行使できなくなります(民法第839条の2第3項の除斥期間。裁判上の離婚では第843条により準用)。会社の評価や資料の収集には時間がかかることが多いため、この期間を意識した早めの準備が現実的です。財産分与全般の基準や、資産の種類ごとの扱いについては、韓国 離婚 財産分与の基準、不動産の財産分与、年金分割の各記事も参考になります。
経営者夫婦の財産分与で弁護士の関与が重要な理由
会社・自営業が絡む財産分与は、韓国でも定型的に処理できる事件ではありません。評価方法の選択、特有財産と共同財産の切り分け、基準時をめぐる主張、資産保全の要否など、事件の構成段階での判断が結果に直結します。手続きはすべて韓国語で進行し、争いのある評価・保全の局面に至ることも多いため、経験のある韓国内の弁護士の関与なしに、外国人配偶者が現実的に対応できる類型ではありません。
汝諧法律事務所は、国際離婚・財産分与の事件を、請求する側と防御する側の双方の立場から扱ってきました。同じ争点を両側から見てきた経験が、争いが生じた後の事件の組み立てで差を生みます。
| 項目 | 韓国 | 日本(参考) |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 民法第839条の2・第843条 | 民法第768条 |
| 判断の中心 | 名義に関わらず実質的な寄与 | 夫婦の協力で得た財産の清算 ほか |
| 非上場株式・事業 | 分割対象・寄与考慮/評価が争点 | 同様に対象となり得る/評価が争点 |
| 請求期限 | 離婚成立から2年 | 離婚のときから2年 |
※日本法の扱いは参考です。実際の適用は個別の事案・準拠法によって異なります。
よくある質問
Q. 会社が夫の単独名義でも、妻は財産分与を請求できますか。
名義が夫の単独であっても、婚姻中に夫婦の協力で形成・維持された価値であれば、妻の寄与が財産分与に反映され得ます。韓国の財産分与は名義ではなく実質的な寄与を基準とするためです。ただし、対象となる範囲や割合は事案ごとの事実関係によります。
Q. 非上場株式の価値はどのように決まりますか。
非上場株式には市場価格がないため、純資産価値・収益力など複数の評価方法があり、鑑定や専門家の評価を要することが多いです。評価の基準時は原則として事実審の弁論終結時とされます。どの方法・数値が採用されるかは争点になりやすく、個別の検討が必要です。
Q. 婚姻前から経営していた会社も分割対象になりますか。
婚姻前から保有していた持分や、相続・贈与で得た事業用資産は特有財産として原則対象外です。もっとも、婚姻中に他方配偶者が維持・増加に寄与した部分は考慮の対象になり得ます。特有財産であることの立証や、共同財産と混和した場合の切り分けが問題になります。
Q. 経営者夫婦の財産分与で、なぜ弁護士の関与が重要なのですか。
会社・自営業が絡む財産分与は、評価方法の選択や特有財産の切り分け、資産保全の要否など、事件の構成段階での判断が結果に直結します。手続きは韓国語で進み、争いのある評価・保全に至ることも多いため、経験のある韓国内の弁護士の関与が現実的に重要になります。
会社や自営業が関わる韓国での離婚・財産分与でお悩みの場合は、まずは基本的な事実関係をLINEでお知らせください。日本語で対応いたします。
※本記事は一般的な法律情報であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的なご相談は弁護士にご確認ください。
汝諧法律事務所 金平浩(キム・ピョンホ/Pyoung-ho Kim)弁護士
韓国弁護士、司法試験合格、司法研修院第43期修了。
大韓弁護士協会 離婚専門弁護士登録。2021年 優秀弁護士賞受賞。
2014年以来、民事・刑事・家事など全分野で累計500件以上の事件を担当。